2017年1月27日

 

 

「反逆者」を生み出せない「日本」という問題

 

 

 

 おはようございます。本日は医療業界とはほぼ関係ない宇宙産業に関する記事を掲載します。といっても、全く関係ないわけではなく、「フィンテック」と同様の変革がこうした先進的産業でも起こっていることをお伝えしたいのです。このページは、いまだビジネスマンやIT関係者の間でもフィンテックや協働、さらにはIoTやAIやディープラーニングといった、技術とビジネスモデルの変革が目の前に迫っていることへの認識を広げ、意識を高めていくことが目的だからです。

 

 宇宙開発はかつては冷戦の道具であり、国家最高機密であり、原子力技術と並んで最先端技術の粋の代名詞として考えられてきました。しかし、この20年で、特にコロンビアの事故とNASAの発表する様々な映像や画像への疑義が欧米で高まりつつあり、各国政府、特にアメリカ政府と、それに引きずられるように日本のJAXAは、宇宙に関する事業を民間に払い下げて、フェイドアウトしていく流れが見えます。

 

 おそらくは、衛星事業のみ、いや、せいぜい弾道軌道の手前の成層圏レベルの「ロケット宇宙旅行事業」を民間に行わせて、撤退しようという印象をもちます。

 

 しかしこの論考では、宇宙開発事業ではなく、既存の事業と技術にIT革命の技術が共同して、ヒト・モノ・カネが日本でもうまく交わって、事業を始めていかなくては、技術立国日本は世界から遅れて孤立してしまいかねないという危機への警鐘として受け止めてほしいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び立てるか、宇宙ベンチャー

 

 

 

宇宙産業にフィンテック、成長市場に横たわる課題

 

 

日経ビジネスONLINE

2017年1月23日(月)配信記事

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/011900392/?P=1

 

 

 

 201716日号の特集「2017年 宇宙商売ビッグバン」の取材班の一人として、昨年末は宇宙産業の取材に追われた。これまで宇宙業界を取材したことはなく、どれも新鮮な話ばかり。だが、取材を重ねるごとに既視感も覚え始めた。「違う業界でも聞いた話だぞ」と。その感覚は取材を重ねるごとに強くなる。

 

 ぼんやりと考えるうち浮かび上がったのが、約1年前に取材した特集「知らぬと損するフィンテック(20151214日号)」だった。フィンテックとは金融とIT(情報技術)を組み合わせた新しい金融サービスを指す造語だ。従来の金融のビジネスモデルを大きく変える可能性があるとされ、今も既存の金融機関やIT、インターネット関連企業を巻き込んで成長を続けている。

 

 産業の舞台は違えど、宇宙産業も市場規模が今後100兆円を超えるとも指摘され、国内外で新しいサービスや事業が次々と生まれている。宇宙産業とフィンテック、どちらも数少ない有望市場と言える。ただ、既視感を覚えたのはそのためではない。双方の業界構造や日本企業が抱える課題もまだ似通っていると感じたからだ。

 

 

 

 

フィンテックベンチャーへの投資規模

 

(出所:アクセンチュア)

 

 

 

 

宇宙ベンチャーへのグローバルな投資規模

 

 

フィンテックも宇宙も市場規模は急拡大しているが・・・

 

 

 

 共通点は大きく3つある。

 

 まず宇宙産業もフィンテックも現状では米国勢が大きく先行していること。つ目にどちらもベンチャーが業界をけん引しており、フィンテックでは大手銀行、宇宙産業でいえば重厚長大企業といった既存プレーヤーが変革を迫られていること。最後に、日本でも有望なベンチャー企業は現れてはいるが、米国勢に比べてヒトとカネが圧倒的に足りていないことだ。

 

 そのためか、特集の章立ても結果的に似た形になった。どちらも米国の先進事例をまとめ、これを追いながら奮闘する日本のベンチャーの取り組みなどを紹介している。最後にフィンテック特集では提言として「金融界を仕切る『大手町・霞が関組』とIT業界をリードする『渋谷・六本木組』の間にある深い溝を越えて両社がコラボレーションすることが必要」とまとめ、宇宙特集では「宇宙に関する知見や技術と、企業や産業が抱える課題やニーズとをうまく合致させることができる人材やベンチャーが必要」だと指摘した。

 

 つまりフィンテックも宇宙産業でも、専門知識を持つエンジニアやビジネスのノウハウを持つ人材が既存の分野に留まらず新しい領域に飛び出していくことが、両分野で日本が存在感を発揮するのに必要ではないかということだ。

 

 だが、言うは易し行うは難し。双方の現場からは「安定した大企業の職を辞し、リスクを背負ってまでベンチャーに飛び込んでくるような人材を、日本で期待するのは無理」という、ぼやきにも似た指摘が共通して聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 

 ここで重要なことは、「人材が足りない」という常套句で表されている「新しいIT技術に対する意識と認識が足りない」といえるでしょう。

 

 記事は「人材が既存の分野に留まらず新しい領域に飛び出していく」という言葉で語られ、ベンチャーの起業の難しさにつなげていますが、それよりもこれはまさに日本人の「IT技術と新しい技術への拒絶を伴った意識の低さ」を感じます。

 

 これは実際仕事をしていると、目先の業務やタスクが何よりも重要で、先のことなど夢物語であり、職場でそういうことを大真面目に話すということは、まずありえない雰囲気が日本にはあります。それは、日々日本だけではなく世界で何が起こっているのか、せめて業界や経済のことだけではなく、政治、国際情勢にまで、自分の仕事の現状と情報をリンクできていない結果だといえましょう。

 

 そのために、当社編集部は、ITの先進技術に重点を置いた記事を中心に、皆様に認識を広げていくことを目的として、さまざまな情報を紹介しています。今後、日本では一般に知られることも、知られてもはしょられたり、ゆがめられたりして正確に伝わらない外国の政治情勢もお伝えしようと思います。

 

 

 

 

 

(記事の続き)

 

 

ロケットベンチャーの苦悩

 

 実際、大企業の後ろ盾のないベンチャーが日本で事業展開するのは容易ではない。

 

 昨年末にエイチ・アイ・エスとANAホールディングスが出資したことで話題となった名古屋市にあるロケットベンチャー、PDエアロスペース(PDAS)。同社社長の緒川修治氏に話を聞こうと、PDASの事務所兼開発拠点を訪れてみた。

 

 名古屋駅から電車で30分。住宅街の一角にその拠点はあったが、「ロケットベンチャー」という言葉が持つ華々しいイメージとはかけ離れていた。事務所は4-5人が入れば一杯になるほど小さいなもの。隣接する作業場には工具が雑然と積み上がり、開発は手作りの実験設備で細々と進められていた。

 

 緒川社長は三菱重工業やアイシン精機などに在籍していたが、新型のロケットエンジンの開発に専念するため独立した。だが事業資金を確保するのには苦労し、100円ショップで購入した雑貨をフル活用しながら開発を進めてきたという。

 

 「日本には米国のように新しい領域でマーケットを作る力が乏しく、お金が集まらない。だから安定した地位と潤沢な予算のある大企業や国の機関から人が飛び出すなんてことは現状では考えられない」と緒川社長は言う。

 

 対照的なのが米国だ。いわゆるIT長者が次の成長領域としてフィンテックや宇宙に目をつけ、儲けたカネを大規模に新しい市場に投じてきた。自らその業界に飛び込んでいく経営者も多い。ツイッターの創業者で後にスマートフォン決済ベンチャー、スクエア立ち上げたジャック・ドーシー氏や、ネット決済大手ペイパルの創業メンバーで、ロケット民間大手スペースXを設立したイーロン・マスク氏などはその代表例だろう。

 

 人材の流動性も高いから、有望市場と見れば一気に人材が集まる。

 

 フィンテックが米国で花開いた背景には2000年代後半の世界金融危機があった。「金融機関で働いていたエンジニアや専門家が大量にレイオフされ、フィンテックに群がった」(国内フィンテックベンチャー経営者)。宇宙分野でも2000年代以降、経済低迷から、開発の舞台が政府から民間に移る過程で、専門知識を持つエンジニアとITで資金力をつけた個人投資家との接点が生まれたという。

 

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 ここでは、日本でのベンチャーのやりにくさ、資金の集まりにくさというもう数十年前から言われてきたことが書かれています。しかし、ここで重要なのは、フィンテックがアメリカで花開いたのは2000年代後半の金融危機であるということです。

 

 具体的に言えば、リーマンブラザーズの破たんとサブプライム・ローンの破たんに端を発した、米国銀行システムの実質的破壊のことです。1999年にペイパルから始まったフィンテック革命を起こした企業は、このアメリカの金融システム崩壊に入り込んで、金融業界の「アンバンドリング」(分解。束ねていたものを解き放つ感じです)したわけです。

 

 同じことがアメリカの宇宙開発事業においても起こっているのではないかと想像するのですが、微妙です。アンバンドリングというよりも、国家による民間への「放り投げ」のような印象を持ちます。つまり、何の役にも立たない。何の収益を図ることもない。面倒だから、民間に放り投げて、全部やめてしまえという価値しかないのではないでしょうか。

 

 それは、グーグルの衛星事業からの「撤退」からわかります。以下に、2014年からのグーグルの衛星事業ニュースのURLを貼っておきます。

 

 

グーグルが人工衛星180基を打ち上げる理由は「地球上のネット接続拡大のため」

2014-06-03

http://wired.jp/2014/06/03/google-deploy-180-low-orbit/

Google、衛星を保有するSkyboxを5億ドルで買収 高精細マップで地球を丸裸に

2014-06-11

http://appllio.com/20140611-5336-google-skybox-imaging-satelite

Googleが構築するスカイサット衛星システムの恐ろしすぎる未来、誰もが考えておくべき可能性と危険性とは

2014-06-19 

http://appllio.com/20140619-5362-what-happens-by-googles-acquisition-skyabox-imaging

Googleが人工衛星製造打ち上げのSkybox ImagingをTerra Bellaと改名、画像分析もレパートリーに

2016-3-09

http://jp.techcrunch.com/2016/03/09/20160308google-renames-its-satellite-startup-skybox-imaging-to-terra-bella-and-adds-focus-on-image-analysis/

 

 

 

ここまではグーグルの怖いまでの衛星事業への進出のニュースだったのですが・・・・・・・・・。

 

 

 

グーグル、衛星画像事業の売却で協議 〜競合社のプラネット・ラブズが買収準備

2017-1-13

http://usfl.com/news/106483

 

 

 上記の記事を読んでみれば、これはグーグルが自動運転車開発の部門を独立させてWaymoという会社にして、グーグル持ち株会社のAlphabet傘下に置いたというのとは明らかに違います。完全に外部のプラネット・ラブズという会社に売却してしまうので、こちらは完全に衛星事業を自社開発することをやめたといえると思います。

 

 やめた理由としては、記事の中に「星の製造や打ち上げ、運営には莫大な資金が必要になるため、グーグルは衛星画像を第三者から購入して費用を節約する結論に行き着いたもよう。衛星画像業界専門家は、画像購入費を年間1000万〜5000万ドルと試算したうえで、「グーグルが衛星を所有する必要はない」と指摘している」とあり、コストの問題としていますが、衛星画像や国際宇宙ステイション、宇宙空間での作業映像に関する疑義の世界的高まりを無視できなくなったことも関係しているでしょう。

 

 いずれにしろ、宇宙開発事業に関連した技術者たちが、大量に民間企業に移動することが考えられます。

 

 

 

 

 

(記事の続き)

 

 

高まるか、ヒト・モノ・カネの流動性

 

 日本でも、10億円規模の資金調達に成功したフィンテックベンチャーはあるし、宇宙分野では201612月、衛星を使って流れ星を人工的に作り出そうと取り組むベンチャー、ALE(東京都港区)が個人投資家から約億円の資金を調達するのに成功。JAXAの元エンジニアがベンチャー企業を起こし、衛星データを使った漁業の効率化に挑むような事例も登場した。

 

 だがこうした動きは一部に留まる。専門知識とビジネスのノウハウを合わせ持った数少ない人材と、リスクマネーを供給できる一部の投資家に支えられているのが現実だ。

 

 そもそも、ベンチャー企業を立ち上げたり、これに投資したりする流れが日本でできたのはつい最近のこと。「成功した起業家が、新たな産業や起業家を育てるような循環を何回も繰り返している米国とは土壌が違う」(スマホベンチャー出身の個人投資家)。この循環は一度回りだせば雪だるま式に大きくなるが、最初に重い歯車を動かすのが容易ではない。

 

 とはいえ悲観ばかりもしていられない。ヒト・モノ・カネ、それに技術が将来有望な産業に集まらないがゆえに、日本が数々の成長機会を見逃してきたとすれば、何とももったいない話だ。

 

 好循環を生み出す特効薬はないにしても、少しずつ流動性を高める施策は出てきていると思う。たとえば昨年末にガイドライン案が示された同一労働同一賃金を巡る議論や、長時間労働の是正の動きだ。働き方改革が進み、正規非正規の格差がなくなれば転職のハードルが下がり、労働市場の流動性が高まるかもしれない。これに正社員の副業や兼業を原則容認する動きが加われば、新しい領域に人が集まりやすくなるだろう。

 

 少しずつでもヒト・モノ・カネの流動性を高めて好循環を生む歯車を回していくことが重要なのだろう。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 「スタートアップ」という言葉はまだ日本では一般的ではないですが、これは特に「フィンテック」に代表されるITベンチャー企業のことに用いられています。その他、ウーバーやAirbnb(エアービーアンドビー。シェアハウスや民泊提供サービス)のようなシェアリング・サービスを提供する会社にも使われます。

 

 ベンチャーというと、日本では危うく怪しい、持ち逃げをするなど、いまだに怪訝とした目で見られています。言葉からも私たちは変えていくことが大事ではないでしょうか。フィンテック系のITサービスの既存事業への適応は日本にとっての死活問題です。日本が今後も技術立国として誇りたいのであればですが。

 

 新たなIT革命のためには、3つの方法があると著書「シェア」の中で述べられています。一つはよくある買収です。二つ目は、ある企業が別の組織を作ることです。しかし、この二つはあまり有効ではないということも述べられています。

 

 最も大切なのは、企業の中でそれまでの成功モデルの価値観とは別の人々を募り、それを内部外部、業種、業態を問わず、あたらしい価値観の共感で結ばれたネットワークを構築していくことです。

 

 これまで日本の企業で世界を席巻するようなサービスはいわゆる「窓際族」とよばれる、企業内での冷や飯食い社員によってもたらされてきた事例はたくさんあります。ビクターのVTR、セブン・イレブンの集中出店による小分け配送の実現、シャープの液晶事業。

 

 しかし、ペイパル創業者でトランプ移行チームの実力者ピーター・ティールはその著書「ゼロ・トゥ・ワン」の中で、IT革命を巻き起こしたのは「反逆者」たちであると述べています。日本のこうした人々は既存の価値観をぶち壊した(つまり会社内では笑われ、相手にされなかった)反逆者に当たり、新たな価値観で時代を作ってきた人々です。

 

 いま日本の企業は「反逆者」と「スタートアップ」が必要なまさにその時期を迎えています。