2017年5月17日

 

 

 

 

 

 

 

 

IT業界の巨人インテルの憂鬱

 

 

 

 

 

不安要素のみじんもない巨大安定企業が今なぜAI自動運転開発へ?

 

 

 

 

 

 

 インテルといえばペンティアム・プロセッサーによって90年代から現代にいたるまで、IT技術の根底である、最も基幹的なパーツの独占によって超安定企業としての地位を確立してきました。

 

 

 数か月前にも、インテルには投資にも経営にもまったく不安要素がないという記事がありました。しかしここにきて、ディープラーニング技術を飛躍的に発展させたGPUを開発したNVIDIAといった企業の動向が無視できなくなり、必ずしもインテルは盤石ではないという状況が生まれつつあります。

 

 

 とはいっても、インテルは恐ろしい企業です。後半にありますが、IoT社会に向けて、自社ですべてを完結できる「垂直統合」が可能な唯一の企業だからです。クラウドからエッジまで、すべてを網羅して開発ができる。

 

 

 以前の記事で、今後のメーカーは水平統合を目指すべきだというものがありました。ほとんどの会社は、少なくとも部分的にでも水平で行かなければ、開発に時間がかかりすぎて、時代遅れになったり、サイロといって、ある一部の部門でしか機能できない製品しか開発できなくなります

 

 

 しかしインテルは、少なくともIT技術においては、その点を全く無視できます。その部分でグーグルやマイクロソフト、アップルまでもしのぐ力があるかもしれません。そこで、自動運転車開発にも名乗りを上げたわけですが、グーグル以上に自動車メーカー以外の依存はないといっていいでしょう。

 

 

 こうした巨大企業でも市場環境の変化を敏感に感じ取り、強い危機感を持っているというところが先進的トップ企業のゆえんでもあります。一般の企業は、それをしのぐほどに市場環境に敏感でなくてはならないという大きな教訓が含まれているニュースだといえます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.7兆円巨額買収したインテルの「危機感」

 

——AI自動運転開発になぜ参戦したのか?

 

 

 

 

 

 

 

TECH INSIDER

2017/05/10

 

https://www.businessinsider.jp/post-33454

 

 

 

 

 

 

IntelがDelphiと共同で開発した自動運転車のテストカー。アウディ「SQ5」をベースに独自に改造している。

 

 

 

 世界最大の半導体メーカーのIntelは、日(現地時間)に、米国カリフォルニア州サンノゼで「自動運転ワークショップ」と名付けた記者説明会を開催した。同社がTier1(ティアワン/共同開発を進める上で最優先の情報を共有する限られたメーカーのこと)の自動車部品メーカー・Delphi Automotiveと共同開発した自動運転車を公開し、サンノゼ市の公道でテスト走行する様子を報道陣に披露した。

 

 

 Intelの自動運転車は見所が満載だ。同社が月に総額153億ドル(日本円で約7200億円)で買収することを決定したばかりのイスラエルの企業Mobileye(モービルアイ)社が提供するカメラモジュール、さらにはレーダーやライダー(LiDAR/レーザー光を使う周辺環境センサー)などの周囲を検知する各種センサーが合計26個搭載された自動運転車は時間あたり4.5TB(!)のデータを作り出し、それをIntelのプロセッサがリアルタイムに処理しながら自動運転する。

 

 

 現在半導体業界は、自動運転の主導権を巡る激しい競争の真っ只中にある。ディープラーニング(深層学習)を使ったAIで先行するNVIDIA、強力なモバイルプロセッサを持ち昨年世界最大の車載半導体メーカーNXPを買収したQualcommなどが、自動車メーカーなどに対して果敢な売り込みを図っている。そうした中で、Intelの強みとはなんなのか?

 

 

 

Intelの財務状況は健全すぎるほど健全

 

 

 Intelは大きく変わりつつある……これは、長年Intelを取材してきた筆者にとって、ここ数年、強く感じていることだ。その最大の要因は、2013年にCEOに就任した、現在のIntelのリーダーであるブライアン・クルザニッチ氏。Intel社内では名前の頭文字をとってBKの愛称で呼ばれるクルザニッチ氏は、CEOに就任して以来、様々な新しい施策を打ち出してきた。

 

 

 

 

Intel CEO ブライアン・クルザニッチ氏(昨年11月のIntel AI DAYで撮影)

 

 

 

 従来のIntelは、PC向けのプロセッサ、そこから派生するサーバー向けのプロセッサを販売する会社であり、そのビジネスが高収益を生み出してきた。'90年代以降、PCの世界ではWintel(Windows+Intelから作られた造語)という言葉が生まれたとおり、Intelのプロセッサは、マイクロソフトのWindowsとセットで、常に80%以上の市場シェアを誇ってきた。

 

 

 Intelが発表した2017年の第1四半期の決算を見ても、今のところIntelの財務状況は健全すぎるほど健全だ。疎利益率は製造業としては驚異的な数字と言ってよい60%を越えており、各事業部の売り上げも昨年同時期と比較して増えている。誰が見ても健全な会社と言って差し支えない。

 

 

 

Intelの強烈な危機感の源泉は「市場環境の変化」

 

 

 ではなぜ、Intelは変わらなければならないのだろうか? そこには未来への強烈な危機感がある。現在は高収益を誇っているPCやデータセンタービジネスが傾かないという保証はどこにもないからだ。例えば、PC向けのプロセッサは、従来の競合だったAMDがRyzen(ライゼン)という新プロセッサを市場投入したことで、性能競争が再発しそうな状況だ。

 

 

 また、マイクロソフトが安価なARMプロセッサ向けのフル機能Windows 10を2017年末までにリリースすると決定したことで、今後はAMDだけでなくQualcommのようなARMプロセッサ採用の SoCベンダー(※)も競争相手になっていくだろう。(※Business Insider編集部注:システム・オン・チップ・ベンダー。CPUやグラフィック、モデムなど複数の機能チップを統合した1チップ半導体をつくるベンダー)

 

 

 データセンター向け市場に関しても今後大きく変わる可能性がある。マイクロソフトがARM版のWindows Serverの投入を発表したことで、これまでARMサーバーの最大の課題とされてきた「ソフトウェアの互換性」問題がついに解決することになるかもしれない。そうなると、やはりQualcommなどのARM SoCを製造するベンダーが、サーバー向けに本格展開し始めるのは火を見るより明らかだ。

 

 

 Intelほどの巨人でも、今後の競争環境などの変化により、今のような高収益体制が維持できる保証はどこにもないのだ。

 

 

 

垂直統合で自動運転AIを提供する独自戦略

 

 

 そうした中で、Intelが新たに力を入れているのが、IoT(Internet of Things)向けのビジネスだ。IntelがIoT向けの事業に力を入れるのは、それがこれからの半導体メーカーにとっての成長事業だと考えられているということもあるが、現在のIntelの強さのつ(PC向けプロセッサ、データセンター向けプロセッサ)のうち、データセンター向けプロセッサ事業との親和性が高いからだ。IoT機器を利用するには、必ずセットでクラウドのWebサービス(データセンター)に強力なプロセッサが必要になるからだ。

 

 

 

 

Intel 上席副社長 兼自動運転事業本部 事業本部長 ダグラス・デービス氏

 

 

 

 そうしたIntelのIoT事業を象徴するのが、自動運転車向けのソリューション。Intelは現在IoTの 中でもとりわけ自動運転に力を入れており、昨年の11月に新しい自動運転事業本部を立ち上げ、その事業本部長にはIntel勤続30年のベテランであるダグラス・デービス上席副社長を当てている。直前までIoT事業を統括するIoT事業本部の本部長だったデービス氏を事業本部長にあてているところに、Intelの自動運転への本気度が見て取れる。

 

 

 

 

自動運転はエッジ(端末側)側の自動車だけでは成り立たない、サーバー側であるデータセンター、通信などが一体となって成立するものだ。

 

 

 

 自動運転というのは、エッジになる自動運転車、それをクラウドに接続する最新のGなどのセルラー回線、クラウド側でディープラーニングの学習をさせるHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューター)、さらに高精度マップなどのサービスを提供するサーバーなどが一体となって動く必要がある高度なシステムだ。

 

 

 

 

Intelの自動運転車がサンノゼ市内を走っているところ。筆者も同乗した。信号が青になっていることなどを自動で認識して非常にスムーズに走る。

 

 

 

 

 Intelの自動運転の強みはそれらのソリューションをE2E(End to End、一気通貫)で提供できることにある。Intelは今後、自動運転車向けに、Atom、Core、Xeonなどのプロセッサを提供する。そこに月に買収を決定したMobileyeの画像認識ソリューションが追加され、さらに強化されることになる。

 

 

 また、モバイルインフラのG対応では、既に開発キットをOEMメーカーなどに提供できている。同じことができているのは、通信に強いQualcommだけだ。そして、データセンター市場は既に述べた通り、現状Intelの独壇場である。Intelではこうした半導体に加えて、ソフトウェア開発キットも提供しており、パートナー企業がそれを利用すれば、エッジ側からサーバーまで一気通貫にソフトウェアを構築することができる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 競合他社にとって、IntelがこうしたE2Eで半導体や開発環境を提供できることは大きな脅威となる。AIで先行するNVIDIAは、エッジ側の半導体とクラウドでのディープラーニングの学習に関してはソリューションを持っているが、5Gとクラウドサーバーに関しては持っていないQualcommはエッジ側の半導体は持っているが、クラウド側は持っていない。IntelのようにE2Eで提供できることは大きなアドバンテージなのだ。

 

 

 もちろん、Intelにも弱点は無いわけではない。例えば、現代の自動車に欠かせない車載コンピューターであるECUをコントロールするマイクロコントローラーのソリューションは持っていない。この点ではNXPの買収を決めたQualcommにリードを許すことになる。その意味で、Intelは引き続き買収戦略などで弱点をカバーしていく必要があるだろう。自動運転を巡る半導体業界の競争は、まさに今激しく進行中なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

Intelが車載向けとして提供しているAtomプロセッサ。開発版のためCONFIDENTIALと刻印してある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

iPodの父が参画した知られざる巨大自動車関連メーカー「マグナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

2017/0510

BUSIESS INSIDER

https://www.businessinsider.jp/post-33367

 

 

 

 「マグナ(Magna)」という名前を知る人は少ないだろうが、世界有数の自動車部品メーカーであり、自動車の受託生産メーカーだ。

 

 

 BMWのような自動車メーカーが、車を増産したいが組立工場は増やしたくないとき、声を掛けるのがマグナなのだ。

 

 

 大手IT企業が電気自動車や自動運転に注目している中、マグナは日水曜日、変革期にある自動車業界をリードするための専門家チームを発足させた。大手IT企業は、車両や部品の自社生産を必ずしも想定していないため、マグナにとって大きなチャンスとなる。

 

 

 チームの一員には、トニー・ファデル(Tony Fadell)氏がいる。アップルでiPodの開発を推進し、グーグルの親会社アルファベット傘下でスマート家電に取り組む「ネスト(Nest)」を創業したことでも知られる電子機器のエキスパートだ。

 

 

 同氏はBusiness Insiderに対し、マグナは世界の自動車部品メーカーの中で、「最も優れた一次部品メーカー」であり、「シリコンバレーのさまざまな企業が取り組んでいるが、理解できていない」自動車部品の設計・製造ノウハウを持っていると思うと述べた。

 

 

 「自動車は世の中で最も複雑なコンシューマー・テクノロジーだ。携帯電話も非常に複雑だが、その携帯電話が単純に見えるほどだ。これほど多くの部品が一体となって、信頼できる素晴らしい製品が成り立っていることに圧倒される」

 

 

 ファデル氏の他に、マサチューセッツ工科大学(MIT)のイアン・ハンター(Ian Hunter)教授、AT&Tの中国子会社を率いていた実業家、程美瑋氏ら人の専門家がマグナのアドバイザリー・チームに加わる。チームリーダーは、同社の古参メンバーで最高技術責任者(CTO)のスワミー・コタギリ(Swamy Kotagiri)氏が務める。

 

 

 広範な視点を持つことが必要だ。学術界からシリコンバレー出身のトニー・ファデル氏まで、さまざまな分野の新しい視点を持つことが良いだろうと考えた。OEMから行政や規制、さらには地域的な視点まで、あらゆるシステムに関して理解するというのが基本的な構想だ」と、コタギリ氏はBusiness Insiderに語った。

 

 

 ファデル氏は、自動車やその他の移動手段が、家電製品の特徴をより採り入れていく可能性に心を躍らせている。電動ゴーカートのメーカー、Actev Motorsにも関わっている同氏は、「我々は移動の選択肢が劇的に増える時期」を体験していると述べた。

 

 

「私の見解では、ホバーボード、セグウェイ、垂直離着陸機、電動バイクなどは、さまざまな人の、さまざまな移動用途に応じて利用されるようになるだろう」

 

台の車には、非常に多くのシリコンチップやソフトウエアが搭載されている。膨大な量だ。自動車製造という非常に分かりにくかった業界の扉が初めて開かれ、IT業界が足を踏み入れることができた。今後、IT業界がいくつかの分野では主導権を握ることもあるだろうし、我々にとって、非常に大きな成長機会となる」

 

 

ファデル氏は期待を込めて語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 編集部後記です。

 

 

 二つ目の記事は、iPod開発者が自動運転車にかかわること自体ではなく、自動車開発に本格的にIT企業が参入をはじめ、自動車業界自体がIT業界になりうることが現実的になってきたという点が重要です。

 

 

 以前に弊社ノートウェアのホームページ記事にて、グーグルの自動運転車開発企業ウェイモがフィアット・クライスラーと提携していくことで、今後すべての自動車会社がグーグルの「エコシステム」に入り、情報やデータをグーグルが共有してそれを主導していくという趣旨のことを述べました。

 

 

 このマグナに関しては、グーグルではなくハード面にもかかわるアップル系の企業です。伝統的にIBMに向こうを張った企業として出発したアップルなので、自動車開発を既存の自動車会社に任すのではなく、自動車自体を開発するところにまで乗り出そうとしています。

 

 

 アマゾンエコーなどで革新的サービスや製品、思想が広がりだしているIT業界において、その盟主ともいえるアップルの最近の動きは、その業績とは裏腹に非常に鈍い。しかしここへきて、徐々にその大きな動きを表してきているようにもとらえられます。

 

 

 いずれにしても、今後の自動車業界は、AIによる制御はもちろんのこと、自動車本体から、道路のインフラに至るまで、IT系企業のエコシステムに「組み込まれて」いくのだろうと思います。