2017年3月22日
保険業界のIT革命「インステック」 PartⅡ
保険業での「フィンテック」技術の応用である「インステック」がすでに開始されている
おはようございます。
今回は前回の「フィナンシャル・タイムズ」からの記事の後半部です。テレマティクス保険によって、事故のリスクをあらかじめ少なくし、保険料請求を少なくするなど、新たな取り組みが述べられています。
最後のほうに、やはりピア・トゥ・ピア(P2P)という、「フィンテック」とまったく同じ考えに基づいたシステムが出てきます。つまり、「インステック」は「フィンテック」のほかの業界への適用の一番最初であり、それが最も効果的に行われている現状がわかります。引き続きご覧ください。
保険とビッグデータ技術革命
新しい保険プラン加入のために、際限のないほど大量の書類に記入することは、過去のものになる
Insurance and the big data technology revolution
Filling in endless forms to buy a new policy may become a thing of the past
February 24, 2017
by: Oliver Ralph
https://www.ft.com/content/bb9f1ce8-f84b-11e6-bd4e-68d53499ed71
路上において
自動運転技術ならば、車の所有者に対する保険料を下げられる ©Getty
より多くの保険を購入することは必ずしも問題ではありません。保険の必要が少ない分野もあります。自動車保険もその一つです。 自動運転車どうやって保証するかという問題は、保険業界ではかなり多くの議論がなされています。自動車がドライバーレスモードの時に事故が発生した場合、誰が責任をとるのでしょうか。最新の政府による提言では、車の所有者が現在かけている保険と同じように、単独保険に加入すべきであると示唆しており、そうなると保険会社は、自動車に過失があることが判明した場合、自動車メーカーに請求することができるようになります。
しかし、長期的に見ると、運転の性質は劇的に変化する可能性があります。コンサルタントのLukas Neckermannは、自動運転車の保護に関する最近の会議で、次のように予測しています。「今後5~10年で、車を所有または運転する必要がなくなり、 必要に応じて移動手段を持つようになるでしょう。車の等級と種類は、保険会社がまだ慣れていない等級に大きく変化します。」
それは次に、自動車保険の性質を変えるでしょう。「個人自動車保険は減少しますが、フリート契約は増加するでしょう」とRaisbeck氏は述べています。「自動車メーカーは保険の提供者かもしれません」。
(編集部注記: フリート契約とは、所有・使用している10台以上の自動車に、まとめて自動車保険を契約している方式。保険情報館というサイトをご覧ください。)
http://www.eiki-i.com/file_h_kuruma/fleet.html
治療ではなく予防
自動運転車の大きな利点の一つは、事故の減少であることが期待されています。AxaのテクニカルディレクターDavid Williamsは、事故の90パーセントは、ドライバのミスーによって引き起こされていると述べています。事故が少なければ少ないほど保険金請求は少なくなるため、保険がより安くなることを意味します。InsureTheBoxやCarrotのような車載テレマティックスを使用している企業は、すでに自社の保険契約者により安全な運転の奨励に努めています。
(編集部注記: テレマティックス: コンピューター機器と移動体通信技術を組み合わせることによって、無線で情報を送受信できるようにする仕組み。)
保険業界の多くの企業は、同様の原理が他の分野に適用され始めることを望んでいます。彼らはテクノロジー活用によって、保険会社が保険契約者に事故を回避する方法をアドバイスして、保険請求件数を減らせることを望んでいるのです。保険会社は単なる保険請求支払いの源であることから、信頼できるアドバイザーに変わりたいと思っています。
凍った道を歩くこうとしている人に警告することはその一例です。しかし、すでに利用可能なものもあります。
「これはしばらくの間話題に上ってきましたが、私たちは、例えば(デバイスなどに)接続された家庭に関しては転換点にいるのです」とBrem氏は言います。「家にリークボットというものがあるのですが、それは(水やガスなどの)漏れがあるかどうか教えてくれます。」
(編集部注記: リークボットのURL。留守宅での水漏れガス漏れ漏電などをデバイスで検知して、スマートフォンに知らせてくれるサービス提供企業。)
(「接続された家庭 connected home とは、遠隔操作デバイスなどに接続された家という意味で、要はIoTのことです。「インステック」はセンサーや今後はAIで物事を計測探知して知らせるIoTとは切り離せない新しい産業です。それが保険適用のオンとオフに活用されるので、保険料支払いに影響が出ます。当然、それは医療における価値基準報酬とも連動するので「ヘルステック」にも同じことが言えます。)
保険会社が膨大な数の個人データ(編集部注記: これがビッグデータです。既往歴や運転歴)にアクセスできるようにするといっても、すべての人のデータにというわけではありませんし、保険会社によっては必要とする情報がより少なくて済む保険プランを提供する場合があります。 しかし、それには費用がかかる可能性があります。保険会社が補償の適用をしなければならないリスクについて保険会社が知らなければ知らないほど、その適用範囲を提供する負担が増えるでしょう。
一部の保険会社は、保険契約者の健康を奨励するために追跡装置を使用している ©Alamy
自動車保険のテレマティクス保険の進歩がその一例です。若いドライバーの多くは、保険会社が彼らの運転データを見ることができるようにすれば割引が可能なので、テレマティクス保険プランに加入するのが望ましいことです。しかし、年配者の場合、割引額はそれほど重要ではないかもしれません。 保険会社は年配者が保険金の請求をしてくることをすでによく知っているのです。そして年配者ドライバーのテレマティクス保険加入者はまだそれほど多くありません。
健康は監視技術の将来性が急速に進んでいる分野です。Vitalityプログラムの開発者である南アフリカの保険会社Discoveryは、Fitbitsやその他のアクティヴィティ・トラッカー等のデバイスを使用して、健康保険の顧客により多くの運動をすることを奨励しています。顧客が運動すればするほど健康になるため、保険は安くなります。ディスカバリー社の最高経営責任者、Adrian Gore氏は、次のように述べています。「不均衡がありますね。つまり、医療は過度に消費され、健康は十分に消費されていません。私たちは10年前に、健康維持に動機を与えるというアイディアを先駆けて開拓しました。今ではそれは健康政策の一部分です。非常に大きな変化が起こりました。それは、リスク要因をよりよく理解しようと努めることと行動変化に動機を与える試みそして、医療システムをより個別的対応にさせることなどです。
(編集部注記: アクティヴィティ・トラッカーとは活動追跡機のことで、ジョギング中に身に着けて心拍数などを計測する腕時計型のウェアラブルデバイスなどを指します。Fibitsという企業が提供しています。)
FIbitsのHP
保険会社VitalityのHP
彼が述べたところによると、将来的に保険会社は、遺伝子データを使用して医療計画を個人ごとに調整できるようになるかもしれませんが、それでも同じデータを価格政策の手段として使用すべきではないと警告しています。
遠い未来
おぼろげで遠い未来、Brem氏は、保険の個々の項目について考える必要さえなくなると考えています。「私たちの業界は、誤ったさまざまな保険種区別を作り出してきました。そんな風には私は自分の人生を考えていないのです。私は私があわせられる単独の関わり合いを持っていたい。私は保険会社にこう言ってほしいのです。「これから私はあなたを評価いたしますが、これが毎月支払いいただく単独保険料とまったく矛盾のない、私たちのおすすめの保険です。」
Walchek氏も次のように同意します。「リアルタイムでリスクを特定するデータが豊富に湧き出てくるでしょう。それは保険のやり方を変えます。たぶん、あなたにぴったりの単一の保険プラン(ヘイローと呼んでください)があらゆる種類のリスクをカバーします。リスク間の差は縮小します。
まさにジェットソンの生活です。
友達に電話する
将来の保険については別の見方があります。大きなデータを使ってリスクを個別に評価するのではなく、少人数のグループが集まって共同出資してリスクを分散するという保険のルーツに保険は戻るだろうという考え方があります。この古いコンセプトの現代的な名前はピア・トゥ・ピア保険です。主なメリットの1つは、詐欺行為の削減であると見込まれています。人々が友人を傷つけていのではないか、または自分が原因ではないかと考えている場合、虚偽の申し立てをする可能性は低いのです。
米国の新規参入企業レモネードはこのアイデアの最も注目を集めているプロモーターの1人です。 レモネードは賃貸市場のための住宅保険を提供していますが、顧客は慈善団体を選択することによって一緒にグループ化されます。各グループの保険料は、年初に共有基金に入れられます。最後に残ったお金はすべてその慈善団体に行きます。レモネードは昨年9月に発足し、すでに2200を超える保険プランを持っていると述べています。
Guevara、So-sure、Friendsurance、Inspeer、Tongjubaoなど、他の多くの保険会社が同じようなモデルに取り組んでいます。彼らが用いているモデルは様々です。たとえば、最後に残ったお金は必ずしも慈善団体に行くとは限りません。一部の企業は、翌年の保険料引下げに利用しています。
しかし、最も多くの人を結束させていることの1つは、多くの保険会社と保険契約者の間に存在している不信を軽減するためにピア・トゥ・ピア概念を活用することです。
Raisbeck氏によれば、このモデルには限界があります。「誰かが多くのピア・トゥ・ピアの特定分野を生み出せるプラットフォームを作ることができれば、それは機能しますが、個々のピア・トゥ・ピア共同出資は、参加者が数百人を超えると機能しなくなります。共同出資をしている人々の間には深い信頼が必要なのです。」
編集部からのコメントです。
最後の部分に、非常に重要な、我々の現代の生活の根本にかかわることが書かれています。「少人数のグループが集まって共同出資してリスクを分散するという保険のルーツに保険は戻る」「この古いコンセプトの現代的な名前はピア・トゥ・ピア保険という」という部分です。
「共同同出資をしてリスクを分散する、この古い考え方」というのは、損害保険という考え方です。絶対主義の時代、王様が船を買って、アメリカ大陸や地中海、アジアからたくさんの文物を運びましたが、沈んでしまったら後の祭りです。
そこでスペインから独立したオランダ人は、絶対主義的な王はおらず、資本家たちが少しずつお金を出し合って船を買いました。そうすれば今までなん100億も出していたところが数百万から数千万の損失で済みます。これがリスク分散です。
複数の通貨や証券、コモディティにリスクを分散するというのはヘッジといって(馬の鞍にまたがってバランスをとるということ)、最近できた発想です。
そして、船が運んできたものや儲けは、出資金額の割合に応じて支払われます。もうけは船一艘分に比べたら少ないですが、リスクは小さくて済みます。さらに、海上での事故を想定して、出資分の割合に応じてお金を拠出し、「損害保険」を初めて作ります。
これが株式会社の原型で、「コーポラツィオーン」(コーポレイション)といいます。いわゆる「会社」はカンパニーといって「コム」「パニス」(パンのこと)からできた言葉で、「ともにパンを食べる」つまり、日本的に言うと「ともに同じ釜の飯を食べよう」という思想です。
コーポレーションはその発想をより近代化したもので、「ともに出資して、その責任を共に分かち合おう」という考えです。これを「有限責任」といって「リミテッド」といいます。日本にかつて存在した「有限会社」はこの「リミテッド」を訳したものですが、家族経営の中小企業に名づけられていました。
しかし、株式会社と有限会社というのはそもそも同じものです。(現在日本の「有限会社」は「協働会社」となって、本来の「リミテッド」という考え方の会社制度となっています。)出資金の預かり証書が「証券」となりました。「証券」は「ストック」とも言いますが「シェア」とも言います。株主のことを「シェアホルダー」といいます。その名前通り、今でも自分の立ち上げた事業(昔なら海運、船の一艘買い)のリスクをシェアしています。
近代の会社、株式会社とはカンパニーではなく「シェア」の発想から出てきたもので、その原型は「損害保険」です。
つまり、自分にとって必要な「部分」だけを出資に応じて「補償」してもらえばいいわけです。それが、今では年間保険とか、必要もない時間にまで保険がかり、無駄にお金がかかってしまっています。それを「あるサービスが必要な人に、あるサービスをマッチングさせる」P2P(peer to peer)という発想が生まれました。
自動車に乗っていないときは保険をかけない。運転しているときだけ保険を掛ける。家に人がいないときだけ保険を掛ける。旅行に行ったときにカメラに保険を掛けるなど、そうしたことがセンサーの発達や「テレマティクス」といったIT技術で可能になったのです。さらに走った分だけ、使った分だけに料金がかかるという発想はPSSとも言います。
こうして「インステック」は「フィンテック」を初めて他業種に応用したものとして、今後あらゆる業界のモデルになります。次は教育、法曹、そして医療です。教育はスマホ塾、法律はスマートコントラクト、医療は電子カルテや遠隔診療といったところから始まりつつあります。これらはみな「フィンテック」によって実用化された暗号通過技術「ブロックチェーン」が基本となります。
少し先になりますが、これからブロックチェーン技術と医療に関する規制や法制に関する資料や記事を掲載していきます。
引き続きノートーウェア株式会社と「ITの最新情報」をよろしくお願いします。
以下は英語原文です。
On the road
It is not all a question of buying more insurance. In some areas we may find that we need less. Car
insurance is one of them. The question of how to insure driverless cars is the subject of much debate
in the industry. If a car has an accident in driverless mode, who is responsible? The latest
government proposals suggest that car owners will buy a single policy much as they do now, and the
insurer will be able to claim from the manufacturer if it turns out that the car was at fault.
Over the long term, however, the nature of driving could change dramatically. At a recent conference
on insuring autonomous vehicles, Lukas Neckermann, a consultant, predicted that: “Over the next
five to 10 years, we will move to a point where we don’t need to own or drive a car and we’ll have
mobility on demand. The classes and types of vehicles are going to change significantly to classes
that the insurers are not familiar with yet.”
That, in turn, will change the nature of car insurance. “Personal motor insurance will decline but
fleet insurance will increase,” says Mr Raisbeck. “The manufacturers of vehicles may be the
providers of insurance.”
Prevention not cure
One of the big benefits of autonomous cars is expected to be a reduction in accidents. David
Williams, technical director at Axa, says that 90 per cent of accidents are caused by driver error.
Fewer accidents should mean fewer insurance claims and hence cheaper insurance. Companies using
in-car telematics, such as Insure the Box and Carrot, already try to encourage their policyholders to
drive more safely.
Many in the industry hope that a similar principle will start to apply elsewhere. They hope that by
using technology, insurers can advise policyholders how to avoid incidents and hence cut the number
of claims. The insurer, they hope, will change from being purely a source of claims payments to a
trusted adviser.
Alerting the person about to walk down an icy road would be one example of this. But others are
already available.
“This has been talked about for a while, but we’re at a tipping point, for example with connected
homes,” says Mr Brem. “I have something called a leakbot at home which tells me if it thinks there
may be a leak.”
Giving insurers access to vast swaths of personal data is not for everyone, and some companies may
offer policies that require less information. But that could carry a financial cost — the less insurers
know about the risks they have to cover, the more they will charge for providing that cover.
The progress of telematics policies in car insurance offers an example. Many younger drivers, who
can save by allowing insurers to see their driving data, are happy to sign up to telematics policies.
However, for older drivers the savings may be less significant because the insurance companies
already know a lot about how likely they are to make a claim, and the market for telematics among
older drivers has not really taken off.
Some health insurers are using tracking devices to encourage fitness among policyholders © Alamy
Health is one area where the potential for monitoring technology is moving ahead fast. South African
insurer Discovery, creator of the Vitality programme, uses devices such as Fitbits or other activity
trackers to encourage its health insurance customers to exercise more. The more they exercise, the
fitter they are and so the cheaper the insurance.
“There’s an imbalance — healthcare is over-consumed, and wellness is under-consumed,” says
Adrian Gore, chief executive of Discovery. “We pioneered the idea of incentivised wellness a decade
ago. Now it is part of health policy. There’s been a massive change. It’s about trying to understand
risk factors better, trying to incentivise behavioural change and making the healthcare system more
personalised.”
In the future, he says, insurers may be able to use genetic data to help tailor health plans for each
person, although he warns that the same data should not be used as a way of pricing policies.
The far future
In the dim and distant future, Mr Brem believes we may not even have to think about insurance for
individual items. “Our industry has created a false separation between different types of insurance.
That is not how I think about my life. I’d like to have a single relationship that I can tailor. I’d like
the insurance company to say ‘I’m going to evaluate you and here is our recommendation across the
piece with a single premium you pay every month’.”
Mr Walchek agrees: “There will be a rich brew of data that identifies risk in real time. That changes
the way insurance works. Maybe there’s a single insurance policy that goes with you at all times —
call it a halo — and covers all kinds of risks. The distinction between risks diminishes.”
How very Jetsons.
Phone a friend
There is an alternative view of the future of insurance. Rather than using big data to price
everybody’s risk individually, there is a school of thought that says insurance will return to its roots
where small groups of people get together to pool their risks.
The modern name for this old concept is peer-to-peer insurance. One of the main benefits is expected
to be a reduction of fraud — people are less likely to put in bogus claims if they think they are
hurting their friends, or causes they care about.
US newcomer Lemonade is one of the highest profile promoters of the idea. It provides home
insurance for the rental market, but customers are grouped together by selecting a charity. The
premiums of each group go into a pot at the start of the year. Whatever is left at the end goes to the
charity. Lemonade launched last September and says that it already has more than 2,200 policies.
Lots of others are working on similar models, including Guevara, So-sure, Friendsurance, Inspeer
and Tongjubao. The models they are using vary. For example, the money left at the end does not
always go to a charity. Some companies use it to reduce premiums for the following year.
One thing that unites most, however, is using the peer-to-peer concept to reduce the mistrust that has
often existed between insurers and policyholders.
Mr Raisbeck says that there are limits to the model. “If someone can create a platform that allows
lots of peer to peer niches to emerge then it can work. But individual peer to peer pools break down
when they get over a couple of hundred people. You need a deep trust between the people in the
pool.”