2017年3月24日

 

 

 

 

 

 

遠隔医療への入り口「遠隔医療相談」

 

 

 

 

 

医療行為ではない「相談」が「ヘルステック」普及の糸口になる

 

 

 

 

 おはようございます。

 

 「インステック」の記事を続けましたが、「フィンテック」技術の応用である「インステック」はそのまま医療業界に適応されることが示唆されています。

 

 医療業界のフィンテックは「ヘルステック」といわれるようになりましたが、この分野は「遠隔診療」「予防市場」「かかりつけ医」の三つの投資領域から始まるといわれています。今回の記事はこのうちの「遠隔診療」にかかわることになりますが、現行の法律では医者が直接対面していなければ医療行為をしてはいけないため、この分野には常に法律の規制がかかわってきます。

 

 その分の法改正などがなされていますが、実際に実施されているものは「遠隔医療相談」という医療行為ではない、アドバイスを行うサービスです。ここから遠隔診療は開拓されていく、いわば入り口としての位置づけと考えて、その事実を理解しておかなくてはなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムダな病院代は「遠隔医療相談」で節約できる

 

 

 

 

 

 

真に必要な患者に「医療資源」を集中すべきだ

 

 

 

 

 

関田 真也 :東洋経済オンライン編集部

2016年08月31日

http://toyokeizai.net/articles/-/133664

 

 

 

 

テクノロジーの発展によって、病院に行かなくても医師と気軽に接触できる環境が整いつつある

(写真:タカス / PIXTA)

 

 

 明らかに体調が悪くても、時間を割いて病院に行って医師の診察を受けることを、面倒だと思う人は多いだろう。そもそも、東京の昼間人口の大半は会社に勤める就業者で、平日の日中に病院に行く時間はないことがほとんどだ。しかし、症状を放置してこじらせてしまえば、後々になって、より多くの治療が必要になってしまい、効率的ではない。

 

 また、少し体調がすぐれない時、そもそも病院に行くべきか、素人では判断に迷うことが多い。心配が先に立てば、安全策として医師の診断を受けておこうと考えるだろう。しかし、病院としては、受診しなくても問題ない患者が来ると、本来診察が必要な患者に時間を割くことができなくなり、現場が回らないことにもなりかねない。

 

 

 

病院に行く判断の「精度」を高めるべき

 

 

 医療費も高騰の一途をたどる中、コスト削減のためには、適切なタイミングで医師の診察を受けに行くべきかどうかを判断する「精度」を上げることが重要になってくる。この問題を解決する手段として、最近注目を集めているのが、遠隔医療だ。遠隔医療とは、患者と医師が直接的に対面しないでやり取りを行う医療の形をいう。最近では、パソコンやスマートフォンを通して医師による診断・診察や健康維持の管理を行う行為を意味することが多い。

 

 遠隔医療相談プラットフォーム「first call(ファーストコール)」を運営するメディプラット代表取締役CEOの林光洋氏は、「病院に行って診察を受けるべきかどうかを判断するための最初のコンタクトポイントを作ることで、遠隔医療のバリューが出る」と話す。first callは10万人の会員を抱える医師専用サイト「MedPeer(メドピア)」と連携し、医師ネットワークを活用している。

 

 遠隔医療はその名の通り、病院に行かなくても医師と話ができる大変便利なものだが、画像診断など一部を除き、原則として遠隔のみで診療を完結することは違法となる。医師法では、「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し…(中略)…てはならない」(20条)と規定されており、遠隔診療はあくまで「対面診療を補完」するものであることが原則となっているからだ。

 

 現状の遠隔医療サービスは、初診を対面にし、再診から遠隔で運用する手法が多い。一方、first callが提供する「遠隔医療相談」 は、あくまで医師が病院に行くべきかどうかなどのアドバイスを行うにとどまる。疾病に対して一応の診断を下す遠隔診療と異なり、医療行為ではないため法律的な問題は生じない

 

 では、どの領域が、遠隔医療相談に対する親和性が高いのか。まず筆頭にあげられるのが、小児科だ。大人の場合、風邪を引いた場合、病院にすぐに行くべきなのか、いったん様子を見るか、自分で判断することができるが、子どもの場合、話は違う。小児の場合、結果として軽症でも救急搬送されるケースが77%と約に達しており、成人の救急搬送と比べて実に1.6倍も多い(平成24年 厚労省「小児救急医療体制の現状」)。

 

 

 

「コンビニ受診」の抑制になる

 

 

 子どもは、自分自身で体の状態を説明することはできないため、親の立場であれば、自分のこと以上に不安を抱いてしまうのだ。こうした現象は、24時間営業のコンビニエンスストアを利用する感覚で医師の診察を受けることから、「コンビニ受診」と呼ばれ、問題になっている

 

 first callでは、子どものちょっとした症状への不安など、母親から子育てに関する相談が実際に寄せられており、問題の解決に役立った事例として、次のようなものがある。ヶ月の女の子をもつ母親から、first callに『朝や昼は大丈夫ですが、夕方になると40度近くまで熱が出ます。食欲はありますが、ぐったりしており坐薬を使ってもなかなか熱が下がりません。このまま様子を見た方が良いでしょうか?』という相談が来た。これに対して、医師は次のように回答した。

 

 

 

 

 

パソコンの画面を通して、医師と対話。残り時間も表示されていて、無駄のない相談が可能だ

 

 

 

 

 「視線が合うか、泣き声が変ではないかなどをチェックし、呼吸の回数が多くなっていないか、いびきのような呼吸がないかなどの呼吸状態、唇が青くないか、四肢や体感がまだら状に紫になっていないかなどの血行状態も確認したところ、明らかな症状はありませんでした。水分も取れているようだったので、翌日の朝まで様子を見ても大丈夫であろうとお話し、もし今晩症状がさらに悪化するようであれば医療機関を受診するように促し、相談を終了しました」(「first call」を利用する医師)

 乳幼児は体温調節がうまくできず、突発的に発熱することもよくある。しかし、医師との間でこのようなコミュニケーションがあったことで、患者が重症化する兆候がないことが把握でき、不要な受診を避けることができたのである。

 

 乳児が重症化する兆候は、素人では判断できないため、親であれば真っ先に病院に連れていくことが通常の思考となるだろう。しかし、今回の事例のように、医師が相談相手になれば、遠隔でも分かることはたくさんある。病院に行くべきかどうか、行くとしてもどのタイミングで行くか、適切なアドバイスを行うことで、患者、医師両方の手間と時間を削減することができるのだ。

 

 また、病院だと診察まで長い間待たされたあげく、流れ作業のように2~3分で終わってしまうことも少なくない。短時間しか確保できなければ、多面的に健康状態について相談することは難しい。しかし、遠隔医療相談サービスでは、15分と比較的長めに時間を取ることができる

 

 「花粉症の診療に特化した実証実験を行っている時に、医師の方々に『何か他に悪いところはないですか、何か相談に乗りますよ』と相談を促してもらったら、普段病院ではなかなか聞けない花粉症以外の悩みも色々出てきた。法的な問題が出る可能性がある診察や診療でなくても、相談ベースに特化しても十分価値があり、患者さんのメリットも大きいことが分かった」(林CEO)

 

 小児科の他に有効と考えられる領域は、脂質異常症や高血圧など、比較的複雑な診断が必要にならない内科の慢性疾患や、通院していることを知られたくない人が多く、プライバシーの問題が大きい精神科だという。特に精神科は、現時点でもリピーターが多く、需要が大きいと見込む。

法人へのサービス提供で収益化を狙う

 

 

 

 

メディプラット代表取締役CEOの林光洋氏(撮影:梅谷秀司)

 

 

 

 

 ビジネスモデルは、ユーザーから使った分の従量課金、ないしは月額会員課金も今後予定しているが、BtoBの形をメインに据えることを視野に入れている。例えば、「カード会社などの会員基盤を持っている会社のオプションサービスや、従業員を多数抱える企業の福利厚生における一つの選択肢として考えていただいている」(林CEO)という。

 

 アメリカの市場調査会社の予測では、遠隔医療の機器・サービスの世界売上高は、2018年には45億ドルまで増加するといわれている。2013年には4060万ドルであったから、その時点から考えて、実に10倍の増加だ。メディプラットの親会社であるメドピア社が実施した調査では、医師の割弱が「遠隔診療に参画したい」と回答している。日本でも、遠隔でまず医師に相談するという行動が一般的になる日は遠くないかもしれない。医師の空き時間と、患者のニーズをマッチングさせることで、人々が医療と接触する機会を増やすことは、国民の健康管理のクオリティを確実に向上させ、ひいては医療費の削減という社会的課題の解決にも寄与していく可能性が高いといえる。

 

 ただ、課題も存在する。医師が関わる中で「相談」が実質的に「診察」となる可能性を内包していることだ。遠隔で完結することが原則禁止されている「診察」とは、厚生労働省の通知によると「現代医学からみて、疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」とされている。定義が曖昧で、「相談」との境目をつけることは簡単ではない。実際の相談事例の中で、この区別をどのように判断するかは、工夫が迫られるだろう。

 

 

 

 

 

 編集部からのコメントです。

 

 キーワードは「コンビニ受診」です。医療費の高騰が叫ばれ、高齢者社会においてはそれが一層国の財政を圧迫する要因になっています。これは先進国のほとんどが同じ問題を抱えていますが、特に昨今の日本では、全く不要な救急車要請が多くなっています。

 

 これのこととは違いますが、小児をお持ちのご家庭では、お子様が深夜に発熱するとか具合が悪くなるなど、心配に事欠きません。それが重大なものならばなおさらですが、重大なものなのかそうでない応急処置や様子見のみでよいものなのか、専門医の判断が欠かせない局面があります。

 

 そんな時とにかくお医者さんにかけてみなければいけないとなって、救急病院にとなります。病院に入れておけば何とかなるだろう、いや病院に連れて行かなければという親御さんの切なる願いと不安があります。しかし、これはやはりムダで精度の低い「コンビニエンス病院」「コンビニドクター」です。

 

 遠隔医療に関しては、それはスカイプでやればいいだけではないか、島しょ部や緊急のもの以外にそれほど意味はないのではないかという意見もあります。しかし、遠隔医療の本質は「医師と患者、医師と医師とのマッチング」「精度の高い無駄のない適切な医療」です。つまり、フィンテックにおけるP2Pという考え方が基本で、料金請求体系もこれに大きく絡んできます。前回と前々回に掲載した保険版のフィンテックである「インステック」の記事はまさにこれを体現しています。つまり「ヘルステック」のモデルは「インステック」なのです。

 

 そこに法規制などの問題や医療過誤、事故が今後起こることが考えられ、「ヘルステック」は進歩の著しい保険業界のデジタル化とは一線を画した慎重さが求められています。

 

 そこで「遠隔医療相談」が法的問題に引っかからず、そのままP2P思想のモデルを実際の世界で運用していることが、この試みの本質です。私たち医療系IT企業は、今後の新しいデジタル医療のビジョンを描く際にこの試みを注意深く見ていることが、今後の事業展開に質することになると思います。