2017年4月3日
電子カルテのブロックチェーン化に関するアメリカの動向
IBMとFDAの協力と米保険福祉長官トム・プライスへの期待と動向
おはようございます。
トランプ新政権の目玉であるオバマケアの廃止が上院で僅差で撤回され、日本の医療制度に今後大きな影響を与えるであろう、アメリカの医療制度改革の見通しが混とんとしてきました。
そんな矢先、IBMとアメリカでの薬品と食品の規制当局であるFDA(U S Food and Drug Administration アメリカ食品医薬局)がブロックチェーンを利用した医療情報交換の安全性保持の研究をするための協力体制に入りました。
このシステムは、基本的に電子カルテをブロックチェーン化するという動きですが、新しく保健福祉長官に就任したトム・プライスは、これにあまり乗り気ではないようです。
しかし、価値基準支払制度とリンクしたブロックチェーン化は、プライスが長年批判していたオバマケア撤廃とリンクする動きでもあります。FDAは必然的に乗り気でありますが、保健福祉省はいったいどう動くのかという動向に注目が集まっています。
デジタルヘルスの普及を待ち望む日本の医療業界にとっても、この動向は注目不可欠のもので、厚労省の担当部局はこのことを非常に注視していると思います。
オバマケアなどはアメリカのことでもあり、健康保険の充実した日本とは医療制度が違うので、対岸の火事のような無関心さでいられますが、日本の行政は必ずアメリカの動向に左右されます。日本では、こうしたことに時間をとることができるため、アメリカでの様子を見ていく余裕があるともいえます。
IT技術と医療系の法制度や規制は今後いっそうリンクして進まざるを得ない、その筆頭に挙げられる非常にセンシティヴな業界でありますので、関係企業や団体の方は、ぜひとも関心を持っていただきたいと思います。
IBM、ブロックチェーン技術でセキュアな医療情報のやり取り目指―FDAと連携
ZDNet.com
2017年01月13日
https://japan.zdnet.com/article/35094920/
IBMは米国時間1月11日、IBM Watson Healthと米食品医薬品局(FDA)の間で、ブロックチェーン技術を利用して医療情報交換の安全性を保つための研究を行うパートナーシップを結んだと発表した。
この取り組みはFDAとIBMの間で結ばれた2年契約で、「ブロックチェーン技術を用いて、安全、効率的、かつ規模の拡大に対応可能な医療情報交換の仕組み」を生み出し、推進することを目指したものだ。
最近では、情報漏えいが日常茶飯事になっている。企業がサイバー攻撃の被害者となることは時間の問題であり、結果的にユーザー情報が漏えいし、何らかの形でオンラインで売買されることになるのはほぼ避けられないかもしれない。機密性の高い個人情報である医療情報が危険にさらされれば、事態ははるかに重大になる。
(編集部注記:個人情報保護に関する規制の取り組みには、米国のHIPAA―Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996、医療保険の携行性 と責任に関する法律があります。厚生省の政策に関するページに「米国のHIPAA法における 個人情報等の保護に関する規定について」というファイルがありますので、詳しくはこちらをご覧ください)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/06/dl/s0616-4g.pdf
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/indexshingi.html
IBMはFDAと共同で、電子カルテ、臨床試験、遺伝子情報、またはモバイルデバイスやウェアラブルデバイス、モノのインターネット(IoT)に保存された健康情報などから得られる医療データの安全性を確保することによって、そういったリスクを緩和することを目指している。
腫瘍関連に焦点を当てた最初の取り組みでは、ブロックチェーン技術を用いて、データがどこで、どのように転送され、交換されたかを記録する電子台帳を作る。これは、仮想通貨の取引を記録する仕組みと同様のものだ。
このパートナーシップによる取り組みが成功すれば、IBMのWatson Health部門は、医療情報を安全に共有できる、規模の拡大に対応可能な分散型のプラットフォームを構築し、ビジネスと利益を拡大するチャンスを得られる可能性がある。
最初の研究成果は2017年中に公表される予定だ。
ブロックチェーンは、複雑な「医療データの管理」も変えうる
患者のあらゆるデータを取れるようになった一方で、その大量なデータを記録・管理する方法は旧来から変わっていないことが多い医療業界。ブロックチェーンを使うことで、安全に、簡単に、患者のデータを共有するための取り組みが、米国で始まっている。
WIRED
2017.03.05
http://wired.jp/2017/03/05/moving-patient-data/
米国上院は2月10日(米国時間)の本会議で、トランプ政権の厚生長官(保健福祉長官)に、トム・プライス下院議員が就任するという人事を承認した。
1月24日の承認公聴会でプライスは、米国で普及が進む「共有型の電子カルテ」(EHR:Electronic Health Record=病院を越えて共有される医療情報)の活用に反対の態度を表明した。プライスは、「われわれは医者をデータ入力の事務員にしてしまっている」と語り、医者の負担になるこの記録システムは再検討する必要があると主張した。
プライスは正しいのかもしれない。EHRが標準化と質の高いヘルスケアという輝かしい新時代をもたらすのを、病院はかれこれ10年近く待たされてきた。しかし、医療データが入手しやすくなった一方で、ほとんどの病院のシステムでは、まだデータを簡単に(そして安全に)共有できない。その結果、医者は患者と話す時間よりも、データを入力する時間の方が長くなっている。
また、このシステムは医者を疲弊させている。総合病院のメイヨー・クリニックの調査によると、2011~14年の間に医者の燃え尽き症候群が45パーセントから54パーセントに急増した。そうした「疲れた医者たち」が何をいちばんに希望するかといえば、EHR処理の効率化だろう。こうした状況のなか、ヘルスケア関連の技術者たちの間で最も支持されているのが「ブロックチェーン」だ。
ブロックチェーンは医療をどう変える?
ブロックチェーンは、ビットコインを支える原動力として最も知られているが、実際は、暗号化した分散型の台帳でデータを安全に管理する汎用ツールである。
データの門番を務める中央管理人をひとり置くのではなく、誰もがアクセスできる共有された台帳が、ネットワーク上に広く拡散している。この仕組みが、これまでになかったセキュリティー上の利点をもたらす。チェーンのなかのひとつのブロックをハッキングするには、同時にそのチェーンの履歴上にあるすべてのブロックをハッキングしなければならないからだ。
そのためブロックチェーンは、患者の情報を安全に管理しなければならない医者や病院にとって、非常に魅力的だ。「おそらくいまは、ヘルスケアのデータ共有にまったく新しい手法で取り組める歴史的なチャンスです」と語るのは、ボストンにあるベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンター(BIDMC)の最高情報責任者(CIO)であるジョン・ハラムカだ。
この10年間、ブッシュ政権からオバマ政権を通じて、米国における医療データ規格の責任者を務めてきた彼には、ブロックチェーンによる未来が見えている。患者のあらゆる医療履歴が、認証されたすべての医療提供者がアクセスできる台帳に記録される、という未来だ。
デジタルトランザクション(取引、処理)が発生するたびに、小さなコードがそれを、暗号化されたブロックに記録する。ビットコインでは大量に同時発生する売買がトランザクションだが、EHRの場合は、受診時のあらゆる出来事(血液検査、新しい処方箋、レントゲン撮影などの情報)がトランザクションとして記録されるだろう。
そしてそのトランザクションを、アクセスキーを預けられた人(つまり医者や薬剤師といった人々)が認証する。それから、認証された各ブロックにソフトウェアがタイムスタンプを押し、古いブロックのチェーンに追加して年代順に並べる。そのようにしてできた履歴は、ビットコインの販売であれ、人工膝関節の処置であれ、その台帳の歴史のなかで行われたすべてのトランザクションを示している。
ハラムカは、単純な例として処方箋を挙げる。アスピリンの服用を示すある患者の医療記録があるとする。その患者の別の記録では、タイレノールを飲んでいると示されている。そしてまた別の記録では、モトリンとリピトールを服用、とあるかもしれない。現在のEHRでは、こうした一つひとつが単独で存在しているという問題があり、患者がいま何を服用しているのか、医者が知りえないこともありうる。
しかしブロックチェーンを使えば、各処方箋は“預金”のようなものだ。医者が投薬を停止するときに、その預金は引き出される。ブロックチェーンを使えば、医者はすべての預金と引き出しの記録を確認する必要はなく、単に残高を見ればいい。
そして病院や薬局は、データを見るために、互いにデータの送信を繰り返す必要はなく、共通の同じ台帳を見ればいい。患者のプライヴァシーとセキュリティーにとって、これは大きな意味をもつ。
未来へのドアはまだ開いている
この仕組みはうまくいくのだろうか? 少なくとも処方箋については有望だ。ハラムカは最近、MITメディアラボの研究者らと協力し、「MedRec」というブロックチェーンアプリケーションのパイロット版をテストした。
MedRecのチームリーダーであるアリエル・エクブローは、BIDMCで6カ月にわたってMedRecの認証ログを稼働させ、入院患者と外来患者の医療データを追跡した。チームは、血液検査、予防接種の履歴、処方箋といった治療上の処置を記録したが、この際に、BIDMC内にある2つのデータベースを使って機関間のデータ交換をシミュレーションした。結果は非常にポジティヴだった。エクブローはすでに、より大きい病院でのさらなる試験計画を始めている。
MedRecはまだ初期段階のプロトタイプであり、近い将来に広範囲に展開される準備はできていない。しかし、政府の医療技術者たちは、その可能性を感じている。保健福祉省の一部門である国家医療IT調整室(ONC:医療機関が新しいデジタル技術に適応できるよう協力する部門)は2016年、ブロックチェーンのコンペを開催した。メイヨー・クリニックのような大手の病院や、保険大手のHumana(ヒューマナ)などが応募。15件が入賞し、MedRecもそのひとつだった。
また、食品医薬品局(FDA)は2017年、「IBM Watson」を使った研究を発表した。EHRや臨床試験、遺伝子配列、さらにはウェアラブル端末からのデータを、ブロックチェーンを使って安全に共有する方法を見つけることを目指すものだ。ブロックチェーンのヘルスケアへの応用はまだ始まったばかりだが、IBMがヘルスケア機関の幹部に対して行った最近の調査結果では、16パーセントの人々が、2017年末までにブロックチェーンのソリューションを何らかのかたちで実装しようとしていると答えている。
プライスが主導する保健福祉省が、ブロックチェーンのムーヴメントを支持するかどうかはまだわからない。2016年12月に成立した「The 21st Century Cures Act」により、こうした相互運用性の問題のいくつかは、保健福祉省の優先課題になるはずだ。しかしONCは、新政権がこの法律の細部を検討するまでは何も始まらないと語った。プライスの事務所はコメントの要求に答えなかった。
ハラムカは、トランプ政権の誰からもまだ連絡はないとしつつも、EHRに対するプライスの過去の発言を見る限り、ブロックチェーンの未来へのドアはまだ開いていると語る。「プライス長官は、患者の履歴を長期にわたって見られるようにすることに好意的ですし、医者への負担を望んでいません」とハラムカは語る。ブロックチェーンとは、労働を分散させる最高の方法なのだ。
(編集部注記: 以下に、注目すべき記事のURLを張り付けておきます。)
Tech Trends 2016 - ブロックチェーン:特定の権威に依らない「トラスト」の確立
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology/articles/tsa/block-chain.html
ブロックチェーンをヘルスケアに フィリップスなどの取り組み
https://fintechonline.jp/archives/98789
人手はいらなくなるか?ブロックチェーンとコグニティブAPIで自動化される保険ビジネス
https://fintechonline.jp/archives/101729
http://www.blockchainfintech.info/%E4%BB%8A%E5%BE%8C%E3%81%AE%E5%B1%95%E6%9C%9B.html
ドイツ銀行:ブロックチェーンは新たな産業を生み出し、既存インフラを破壊する可能性がある