2017年2月17日
ビッグデータとは何か?PartⅢ
量と頻度と多様性の膨大なデータと処理システム
コラム: ビッグデータへの道
第3回「ビッグデータを活用するためには」
ビッグデータを武器にするために必要な3つの要素について、お話します。
http://www.hitachi.co.jp/products/it/bigdata/column/column03.html
「ビッグデータを活用するためには」
さて、第3回目に入る前に、これまでのことを簡単に復習しておきます。
これまで、このコラムで述べてきたのは、以下の4点です。
「ビッグデータ」は単に大きなデータというわけではなく、扱うデータの種類がこれまでと異なること。
「ビッグデータ」ではRDBMSやNoSQLをデータの種類や用途に応じて使い分けるべきであること。
「ビッグデータ」の活用とは、高速なハードウェアや高度なソフトウェアを利用するということではなく、データや情報をもっと実際のビジネスに役立てることである。
「ビッグデータ」の活用とは、データを活用してビジネスに役立てることなので、業種に特定されず様々な活用範囲が考えられ、どんな活用があるかを考えること自体が重要となること。
そして、今回の第3回目は「ビッグデータを活用するためには」ということで、活用するためにどんな準備や心構えが必要なのかを考えます。雑誌やセミナーなどで「ビッグデータを活用をしないとビジネスに乗り遅れたり、ライバルから遅れをとるかも」という話が出たりしていますが、実際に「ビッグデータ」の活用がうまくいくのかということに少々疑問があります。
というのは、これまでも情報系システム、例えばBIとかナレッジマネージメントなど、様々なシステムの利用が叫ばれてきましたが、どうも本当に活用に成功している企業はあまり多くはないようなのです。
図1は、2010年12月に株式会社アイ・ティ・アールで実施した企業ユーザー調査の結果です。
この調査結果では情報分析ツールの利用状況を聞いています。残念ながら、情報分析ツールを「効果的に利用しており、ビジネスに貢献している」と回答した企業は全体の8%しかありませんでした。
図1.情報分析ツールの利用状況
編集部からのコメントです。
これは驚くべきことですが、今の日本の現状です。そもそもビッグデータという言葉が一般化すらしていないのですが、ビジネスに実際に役立っているという回答が回答数634件(この母集団が非常に少なすぎます。ビッグデータを知っている層がこの程度なのかもしれません)に対して8%。
それ以上に深刻なのが、「利用していない」「利用が進んでいない」層が71%です。つまりビッグデータの活用は、全企業を合わせてもほとんどなされていないのではないかという推測が成り立ちそうです。
それ以上にビッグデータ自体を知らない層がこのグラフ自体を圧倒しているのではないでしょうか。というのは、ビッグデータという言葉自体、ほんの一部でささやかれているというのが、一般の日本の企業での現状だと思います。クラウドの導入ですら、日本ではまだ一般的ですらないからです。
一刻も早く、ビッグデータという言葉だけでも知ってもらい、その理解を普及させて、その活用の下地作りをすることが大切です。
(記事の続き)
もう1つ、調査データを見ていただきたいのは、図2は株式会社アイ・ティ・アールが2001年度から毎年実施している「国内IT投資動向調査」の結果からなのですが、主要なIT動向のひとつとして「情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備」の実施率と3年後の実施予定率の経年変化を表したものです。
これも残念ながら、実施率は3割程度で、2005年度から一向に増加していません。調査では3年後には5割以上が実施予定と毎年回答しているので、本当ならすでに6割以上の実質率になっても良いはずです。どうも、基幹系システムに比べて情報系システムは、導入したいと考えていても、導入できないケースが多いようです。
では、なぜ情報系システムの導入はうまくいかないのでしょうか。「ビッグデータ」の活用に取り組む前にこの疑問に対する答えを見つけておく必要があると思います。
図2. 「情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備」実施率推移
編集部からのコメントです。
このグラフの「情報・ナレッジの共有/再利用環境の整備」というのは、まずナレッジ knowledge というのは「知識」です。「情報と知識をIT技術によって共有できているか」というグラフです。
左下の青い折れ線グラフが実際にそれを実施しているパーセンテージで、右上の黄緑色が「3年後に知識と情報をIT技術で共有するつもり」のグラフです。
例えば青いグラフの一番最初にある27.6%は2005年度の企業の実施率ですが、右上の黄緑グラフの一番最初の72.6%は、その3年後の2008年に予定していた実施率です。しかしその現実は、真下にある青いグラフの98年の実施率19.1%です。
2005年から2011年まで実施率は横ばいで、最終的に当初より2%を超えた下落率です。2011年は日本でスマートフォンが普及し始めたころですから、一概にこれによって実施率の現状を見ることはできませんが、6年前までその実施率は3割未満という非常に低いものであったことがわかります。
(記事の続き)
「ビッグデータ」活用の本質は、データ分析をビジネス貢献につなげ、競争優位を獲得することになります。ではそのために何が必要なのでしょうか。
基本的に「ビッグデータ」には3つの要素が必要になると考えています。
1.データ環境
「ビッグデータ」の特徴はデータの種類が様々であるということを挙げましたが、その様々なデータに対して、あらゆる角度から分析できるデータを備えていることが必要です。どんなに優秀な分析ツールやアルゴリズムがあっても、データがなければ、ガソリンが入っていないスポーツカーのようなもので、全く役には立ちませんから。
さらに、データがきちんと管理されているということも重要です。どこに、どんなデータがあり、それは誰のものか、どの程度正しいデータなのか、いつのデータなのかが分からないと、整理されていない倉庫のように「ビッグデータ」は宝の山でなくごみの山になってしまいます。
2.ツール環境
クエリツール、レポーティング・ツール、OLAPのクライアント・ツール、分析ツールなど対象となるデータを分析するために適切なツールがそろっている必要があります。そして、どんなに高度なツールでも、それを使いこなせる人がいなければ無用の長物になってしまいますので、操作に関するトレーニングやヘルプデスクの配置も重要になります。
3.情報リテラシ
ここでいう情報リテラシとは、統計に関する知識やツールの使い方を知っているというだけでなく、データ活用に関するアイデアやデータを見る目といった能力が含まれます。
そして、実はもっとも重要と思われるのは、「データを重視する」という企業風土であると思います。経営者、ビジネス部門のユーザー、IT部門のすべてが分析の重要性を理解した上で、それぞれの立場から3つの要素の整備や能力向上に強くコミットしている状態を築く必要があります。
しかし、この「データを重視する」という企業風土の構築というのが、一番やっかいな障壁かもしれません。
例えば、データを分析して行動しようとしても、上司から「データより現場だよ、データ分析をする暇があったら客先に出ろ」とか、「それはこれまでのうちの常識とちがうな、このやり方でずっとやって来たんだ」と言われた、または言ったことがないでしょうか。また、施策の良し悪しよりも、それをだれが言ったかが重要視されていたり、発言力のある人の意見が通るなんてことはないでしょうか。
確かに、常識や経験から生まれたカンには、なんらかの事実に裏付けされた結果生まれたものであるかもしれませんが、それは過去のもので、今は違っているかもしれません。だからデータで確かめてみようという企業風土でなければ、「ビッグデータ」を十分に活用することは難しいかもしれません。もし、あなたの企業が、図1に示した8%の企業である自信がないのなら、自問自答してみることが必要かもしれません。「データを重視しているのか?」と。
図3.ビッグデータの活用を支える要素
「ビッグデータ」が単なるバズワードになるのか、それともあなたの企業の武器となるかは、データ活用をどのように考えるかということにかかっていると思います。つまり、データを資産として考え、分析という活用を行うか否かということです。
「ビッグデータ」の活用には、必ずしも決まった形や1つの正解があるわけではありません。ただ、経営環境が目まぐるしく変わる現在、これまでと同じようなデータの使い方や意思決定のスタイルを継続していて良いのかということは、考える必要があることは確かだと思います。そこから、あなたの「ビッグデータ」への道は始まります。
これまで、3回のコラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。
このコラムが「ビッグデータ」を理解することに関して、少しでもお役に立てたなら幸いです。
編集部からのコメントです。
最後の章は最も身につまされることです。「データを重視する」という企業風土の構築というのが、一番やっかいな障壁というこの一文につきます。
どの企業どの業界、どんな施設も、データを重視して正確で迅速、変化のある多様な流れに即した方針や判断を打ち出すのではなく、旧来の経験と人間のカンに基づいた人力のみでビジネス、というより「仕事」を行うことが何よりも安全で賢明なやり方なのだという迷信まがいの雰囲気がまかり通っているというのが現状ではないでしょうか。
上記の3の「情報リテラシー」の中に書かれている、「データより現場だよ、データ分析をする暇があったら客先に出ろ」、「それはこれまでのうちの常識とちがうな、このやり方でずっとやって来たんだ」、「施策の良し悪しよりも、それをだれが言ったかが重要視されていたり、発言力のある人の意見が通る」というのは、誰もが経験してきたことではないでしょうか。
そして、誰もがデータという煩雑な分析をそれだけを何の目的もなく、上司命令でやらされているというのであればやれるかもしれませんが、自分が方針を決めて売り上げをあげなければならない場合、自分のこれまでの経験とカン、それまでの常識、やり方のほうが効果的であり、効率が良い、自分の自信のある方策のほうがよい場合が多いでしょう。
しかし、自分の長年の経験や努力、足でつかんで積み上げてきたデータというものは、会社の施設やアセット、金融資産より重要な「資産」なのです。そして、データを資産としてみることは、これからのビジネスの世界で、これまでの数十数百、数千倍の比重となっていくものです。
「データを資産として考え、分析という活用を行うか否か」という記事の筆者の言葉は非常に重いものです。この3年間で、いかにしてディープラーニングに基づいたAIを活用できるかどうかが、あらゆるビジネスの生命線になることは、自明のことになってきました。
ですから、ビッグデータとはいかなるものであるかから始め、それをビジネスにどう生かし、社内や業界にデータを資産としてより重視するという風土をつくるということが、今後の成功のカギになると思います。