Amazon Goの衝撃

 

 

 

 2012年12月5日、世界のビジネスを震撼させる衝撃的なニュースが走った。アマゾンによる「Amazon Go」というプロジェクトの発表である。Amazon Goというのは、レジを置かないコンビニエンスストアのこと。レジがないというのは、スマートフォンのアプリを使用して、会計の自動化を図る試みである。

(<アマゾン>レジなしコンビニ開店…アプリで決済、米で来年 毎日新聞 12/6(火) 10:32配信記事 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161206-00000024-mai-bus_all

 

 セルフレジのスーパーは欧米ではすでに数年前から始まっており、日本でも一部実施している店舗は存在する。日本の場合はセルフレジといって、レジ担当者がおらず、自分で商品のバーコードを一つずつリーダーに読ませて、自分で袋詰めをするというものだ。お金も自分でレジに入れて、自分でおつりを取る。つまり、レジ係の作業をそのままお客がやるという仕組み。

 

 Amazon GoはICカードの代わりというだけではないのかと思われるが、どうも全く違うものだ。まずはアマゾンが配信しているCM映像を見て確認してほしい( 「Amazon Go」とは https://www.youtube.com/watch?v=NrmMk1Myrxc Amazon Go のCM。アマゾンの公式youtube チャンネルから)。

 

 ごらんのとおり、ある男性がコンビニに入店する際に、ゲートにスマホをかざして、おもむろに商品棚から商品をつかみ、そのままそれを持って、知らぬ顔をしてゲートを通過している。まったくお金のやり取りはなしである。カートやバスケットすら存在しない。自分のバッグがバスケットだ。もちろん、電子マネーを使用していることが前提だ。

 

 これだとこれまでのようなICカードと同じではないかという感じもする。しかしICカードとはそもそもコンセプトが違う。結論から言うと、Amazon GoはIoTである。IoTとは「インターネット・オブ・シングス」といい、PCのみならず、それ以外の電子デバイスや家電、さらには電機と関係ない「モノ」にまでインターネットに接続する試みだ。

 

 

 

ICカードとIoTはどこが違うのか

 

 

 ICカードというのはSUICAなどのようなICチップが備わったカードのことだが、IoTとは根本的に違う。ICカードはカードリーダーの設置が必要で、設備投資やメンテナンスを含めたコストが膨大にかかる。ここがIoTとの大きな違いだ。

 

 IoTの場合、基本的にスマホによる操作で、アプリをダウンロードするだけで、あとは何の設備もいらない。Amazon Goの映像を見ると、ゲートがあるため、その分の設備投資が必要だと思われるが、あのゲートはおそらくただの入り口と見たほうがいいだろう。なぜなら、Wifiやネットでつながれているのだから、その時点で来店客が認証されることは明白だからだ。つまり、店側の会計に関する設備投資は、基本的にネット環境をそろえるだけと思ってよい。

 

 驚くのは、すでに商品がすべてインターネットに紐づいていることだ。IoTとは文字通り「モノのインターネット」だ。これまではPCやモバイル、スマートフォンだけをつないでいたウェブが、家電などの電気デバイスから、電気とはまるで関係ない衣服や食品に至るすべての物をネット接続するという試み。

 

 コンビニとなると、おにぎりやサンドイッチといった食品すべてがインターネットに紐づいていなければならない。これはいったいどのような仕組みで行われるのかわからないが、センサー感知として考えれば、図書館やCD屋においてかなり昔から実施されている。商品の管理のためにセンサーで紐づけることは、考えてみれば非常に簡単なことだ。商品タグやセロハン、容器に何かをつければよいからだ。

 

 こういった仕組みは、すでにあるICカードとは全く異なるもので、ICカードの目的はあくまで会計の簡略化のみである。IoTの場合は、会計すらスキップできる。入口のゲートも、スマホを認証する設備だとは思うが、そもそもそれ自体が必要ないはずだ。

 

 

 

もうすぐ世界からレジや改札すらなくなる

 

 

 そうなると世界から、レジが一掃されることが考えられる。レジ係というものが、駅の符切りと同じように「かつて世界にあった考えられない職業」として知られることになるだろう。いま自動改札に慣れている私たち(自動改札が開始されてから22,3年が経つ)からすれば、あの駅員の皆さん、考えられない不合理な重労働を強いられていたものだと思う。ブラックなんてものじゃない。

 

 レジ係も同じだ。そうすると、世界にこれまで広範に供給されていた仕事がなくなるのではないか。多くの人が職を失うきっかけとなることが目に見えている。

 

 こうした予測は英紙「フィナンシャル・タイムズ」も予測している。

 

 

 

(引用開始)

 

 

Amazon’s no-checkout store threatens death of the cashier

「フィナンシャル・タイムズ」 2016年12月9日

「レジなし店舗でレジ係が消滅!!?」

 

https://www.ft.com/content/e89f5c3e-bd55-11e6-8b45-b8b81dd5d080

 

 

The New York Post has called it, baldly, “the end of jobs”. About 3.5m people were employed as cashiers in US stores last year, according to the Bureau of Labor Statistics — more than in any other occupation aside from sales. 

 

The BLS expects that number to rise just 2 per cent in the next decade, far less than the 7 per cent increase it projects for the entire US economy.

 

The British Retail Consortium is even gloomier. It reckons one-third of the industry’s jobs will disappear by 2025, as technology takes over more tasks and human labour is priced out of the supermarket by a rising minimum wage.

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 アメリカでレジ係、キャッシャーに従事している人は、320万人。販売員に次ぐ多さだ。レジ係は手っ取り早く職にありつく手段として(今の日本のレジ係は、あまりにも高度な作業を要求されるため、簡単には従事できないが)、世界中の労働市場で重宝されてきた。この労働人口が一気に失業するというのは考えにくいが、それはかなり早く訪れるだろう。イギリスでは2025年までに、小売業の仕事の三分の一がなくなってしまうと予測されている。

 

 会計手続きがなくなることで、古くからあった、店側と来店客の交流もなくなるのではないだろうか。実際、人と人との実際の触れ合いが大切であるという向きもある。

 

 

 

(引用開始)

 

 

Georges Plassat, chief executive of French retailer Carrefour, agreed. He insisted this year that “the physical network is the essential foundation”. Customers in the food industry are looking for contact, advice and service, he said — things they are most likely to find in a physical store.

 

Trader Joe’s, the US discount supermarket, eschews automation in favour of hipster staff who exude positivity and go out of their way to engage customers in superfluous chit-chat. 

 

 

「フィナンシャル・タイムズ」の同記事から

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 人間同士のフィジカル・ネットワークを大切にするというのはわかる。それは「フィンテック」に代表されるP2Pビジネスや、モノをシェアしようという大きな動きだととらえられる。

 

 しかし、小売店の会計に関しては、進歩とは逆方向のこうした動きがなぜ起こったのかが不思議である。やはり人間らしさという当たり前のことを私たちは好むのであろうか。それももちろん確かである。しかし、顧客と店員の触れ合いを求めようとする背景には、「自動化」による「非効率」があらわになったことが原因として存在する。

 

 

 

(引用開始)

 

 

But those forecasts may be overstated. After all, the number of store clerks in the US is actually slightly higher now than it was in 2005, despite a decade of innovations such as internet retailing, self-scan checkouts and contactless payment cards. 

 

 

(中略)

 

 

Many customers enjoy a human touch, or are fed up of the robotic chiding they receive when an item in the bagging area weighs more than a database says it should. 

 

Walgreens, the biggest US pharmacy by sales, installed a few self-checkouts six years ago but scrapped them when customers failed to take to the technology. Albertsons, a US supermarket chain, has replaced some of its self-checkouts with additional express lanes, which it says are more efficient. 

 

 

(中略)

 

 

Even Walmart, the utilitarian retailer that has installed self-checkout kiosks in most of its stores, concluded last year that spending more on staff was the best way to halt five consecutive quarters of declining same-store sales, although the company is still evaluating deeper automation.

 

 

(「フィナンシャル・タイムズ」の同記事から引用)

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 記事を読むと、小売り店員は2005年よりも若干増えている。その間の10年、ショッピングにICカード、そしてセルフレジができたにもかかわらずこういう結果となっているのは、多くの来店客が、袋詰めエリアでロボットからのたしなめを受けることにうんざりし、人間とのやり取りを好んでいるからとある。

 

 このロボットというのは自動化したレジのことだ。しかし、ウォルマートをはじめとした欧米のデパートが、無人レジを廃止し、従業員を増やしているという。レジに並ぶ列を習いを変えるなどしたほうが効率がいいらしい。

 

 しかし、コンビニやスーパーのレジ係と心の交流(親切な店員さんは本当に気持ちの良いものであるが)など、そもそも普段一般的なものであろうか。店での買い物は、食品の小売りなどの場合、店側も客側もそっけなく、むしろさっさと終わらせたいとしか思っていない。

 

 だからセルフレジが開始されているのだが、これは技術の進歩でも、便利さの追求でもない試みだといわざるを得ない。そんな時に日本でローソンとパナソニックがセルフレジから一歩進んだ「ロボレジ」を開発したというニュースが入ってきた。

 

 

 

モノづくり日本の過剰品質「ロボレジ」

 

 

 

(引用開始)

 

 

ローソン、「全自動レジロボ」の実験を開始

来年7月以降に10店舗程度に導入する方針

読売新聞

2016年12月13日

http://toyokeizai.net/articles/-/149408

 

 

 ローソンとパナソニックは12日、大阪府守口市のコンビニエンスストア「ローソンパナソニック前店」で、商品の精算から袋詰めまでを自動化する機器「レジロボ」の導入に向けた実証実験を始めた。

 

 実験では、まずバーコードリーダー付きの買い物かごを使い、客が商品のバーコードを読み込ませる。買い物かごをレジロボの上に置くと自動精算され、かごの下のふたが開いて袋に商品が入る仕組みだ。今後、電子タグを使う方式の実験も行う。

 

 レジロボはパナソニックが開発した。導入によって店舗の人手を減らせる効果などが期待できる。ローソンは結果を検証した上で、来年7月以降に全国10店舗程度に導入する方針だ。

ローソンの竹増貞信社長は記者会見で「コンビニ業界は店舗運営が複雑化する一方で、人手不足が深刻化している。業界を挙げて導入を進めたい」と述べた。

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 「ロボレジ」は人手を減らすことができ、その一方で人手不足だ、というのは非常に奇妙な記事である。この仕組みは、一見非常に時代の最先端を行っていて、「モノづくりの日本」を表しているように思える。しかし、実態は全くの時代錯誤、過剰品質だといわざるを得ない。

 

 ロボレジはまず一つ一つの商品をバーコードでお客さんが読み取る。この方式はすでに日本でも導入しているスーパーは出てきている。レジ係と同様の作業をお客の側からするという単純なもので、自動化とは程遠い。

 

 「ロボレジ」の場合はここからが違う。お客はバーコードで読んだ商品を袋に入れるのではなく、「専用バスケットに入れて専用レジに置くだけで、自動的に精算して袋詰めするシステム」だ。

(ローソンとパナソニック、精算と袋詰めを自動化する「レジロボ」の実証実験を開始 2016/12/12 http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/121203703/)

 

 この専用バスケットに何らかのセンサーがついていると思われる。しかし、それを「ロボレジ」に置くだけで精算が可能という意味が分からない。現金であろうと、ICカード、クレジットカードであろうと、従来のレジでの会計作業と同じことをしなければならないはず。

 

 「ロボレジ」の新しい技術は、わざわざ袋るづめをしてくれるところだ。ここが従来セルフレジと違う。なんでも卵すら割ることなく、ソフトな袋詰めをしてくれる。この部分だけ、日本らしい「よさ」が感じられます。便利だし、十分「あり」だと思う。

 

 しかし、考えてみてほしい。袋詰めだけ楽になったという以外、この試みに良いことがあるだろうか。お客さんが自分でレジ作業をやるということは、それだけ今よりたくさんのレジを置くということだ。もしそうでなければ、プロのレジ係がバーコードを読み、レジを打ったほうが早い。そこで先ほどのフィナンシャル・タイムズの記事にあるような、無人レジ廃止という流れができたのであろう。無駄にコストがかかり、効率も悪くなる。

 

 これに対して、Amazon Goは全く違った概念で運営される。つまりIoTなのだが、これを説明するのに最も良い素材がある。ネスレが2016年10月に発売した「バリスタi」がそれだ。

 

 

 

自動化とIoTの違い

 

 

 自動化というのはその名の通り自動化、オートメーション化のはず。しかし、実際にはそうではなく、あくまで人の作業の代わりという点で「自動化」がなされることが多い。さきの「ロボレジ」の「自動化」は、会計でも、商品チェックでもなく、袋詰めのみだ。

 

 そういう意味で、これまでのセルフレジはあくまでお客が店員に代わって作業をするのであって、全く自動化とは程遠い。ICカードで会計をしようと、レジに組み込まれたシステムをタブレットにしようと、まったく同じ事だといわざるを得ない。

 

 しかし、Amazon Goはその点で本当の意味で無人の自動化といえる。そして、単なる自動化ではなく、IoTには「スマート」という新しい概念が存在している。

 

 「スマート」というのは合理性を目指すものだ。合理性は効率とは全く違うもの。音が似ているから同じように思えるが、合理をラショナル、効率をエフィシエンシーという。

 

 合理を表す「スマート」という考えで、昔から実現に向けて宣伝されているシステムが「スマート・エネルギー」だ。これは、ガスエンジンや燃料電池、太陽光など複数の発電方式を組み合わせて使い、そのデータをリアルタイムで取って、どの時間帯でどの発電方式を使うべきかを切り替えて、その時点で最も効率の良い、安いエネルギー源を使うことを目指す。

 

 そうなると、非常に細かく大きなデータが必要となる。それがビッグデータであり、ライフログという、個人の趣味や傾向にまで及ぶ、詳細な生きたデータを処理する必要がある。それを実現するのがAIであり、あらたな「ディープ・ラーニング」というAI革命だということになる。

 

 こうしたことを初めて実現したのが「フィンテック」と呼ばれる金融ビジネスだった。P2Pと呼ばれる、ビッグデータを解析して「与信判定」と、人と人とのマッチングを容易にしたことがそれだ。もっとわかりやすいのが保険業界のフィンテックである「インステック」(インシュアランス・テクノロジー)だろう。

 

 「走った分だけ」などのキャッチフレーズで知られる損保CMが「インステック」だ。これもIoTそのもので、自動車に計測デバイスを取り付け、スピード、急ブレーキの回数、運転回数、運転日時や頻度などを計測し、危険運転などが少ない場合、翌月の保険料割引やポイント付与を行う。

 

 フィンテックの場合は、様々な口座やクレジットカード、保険といった金融資産を一つのポートフォリオ(金融資産リスト)にまとめて、そのデータから合理的な結論を導き出して、今月使える余分なお金「お小遣い」などを提示する。スマート・エネルギーの場合も、月々の電気代やガス代などをデータから合理的に導かれた方法で、いかに無駄なくできるかを提示するようになることが考えられる。

 

 そこでネスレの「バリスタi」が出てくる。

 

 

 

コーヒーメーカー「バリスタi」がなぜ先進的デバイスなのか

 

 

 ネスレは2016年の4月に「Prodigio(プロディジオ)」という、スマホによる遠隔操作可能なコーヒーメーカーを発売している。しかし、これはBluetoothによる通信で、あまり離れた場所からだと操作ができない。また、そもそもコーヒーカップを置いて、コーヒーができたら取りに行かなくてはならないのに、遠隔操作する必要があるのかという疑問がある。しかも、「Prodigio(プロディジオ)」はたった25秒でコーヒーを抽出できる。そこに来て価格が2万3000円だ。

(ネスレの「スマホ連携コーヒーメーカー」はホントに便利? 2016年06月08日 

http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1003590/053100307/

 

 さらに、そこに2016年10月1日に「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ i[アイ]」が発売され、価格は7980円。しかし、基本的にこの機種は無料で貸し出しをする仕組みを推奨している。それはコーヒーお届け便というサービスに申し込めばよい。

 

 いったいこれは何を意味するのか。こちらはBluetoothではなくスマホ操作のコーヒーメーカーだ。バリスタは以前から発売されてはいたが、今回のモデルがそれまでのもの、そしてプロディジオと違うところは「本体無料の公式サービスがあるかないか」だけである。(ネスカフェアンバサダーの口コミと価格や評判 http://blackgold-coffee.com/nescafebarista/2961/#i)

 

 これは使った分だけ料金がかかるという「PSS(プロダクト=サービス・システム」のことで、「P2P」(ピア・トゥ・ピア)という協働型消費のことであり、従来とは全く違ったサービスを意味する。「フィンテック」の食料品バージョンともいえる。つまり、なぜ無料で使った分だけというサービスと、スマホを連携させているのかというと、「ビッグデータ」「ライフログ」を取るためだ。

 

 

 

バリスタiはライフログ集積機

 

 

 それがわかるのが、スマホを使ってコーヒーの量、濃さ、泡立ちを調節でき、カスタマイズした自分好みのコーヒーの味の設定を保存しておける機能があるということ。こうしたことがまさにライフログとなる。同様にアプリに搭載されたオンラインショップやポイント付与、SNS機能と連携させて、その人の味の細かな思考をリアルタイムで採取できるからだ。

 

 オンラインショップと連携して、コーヒーをネスレに注文し、その分だけポイントを付与し、ユーザー同士、SNSでコーヒーの趣向を教えあうことで、細かなライフログを形成することができる。商品開発やマーケティングに、この上ないデータを提供することとなるだろう。

 

 なぜにコーヒーでという疑問が浮かぶ。考えてみれば、多種多様な食品がある中でコーヒーは、法的な規制をほぼ受けることがなく、種類や入れ方にある一定の様式があるため、消費者の生活の形を理解しやすい。ライフログを取って、その他の商品で同じことを行う際に適応できる再単純モデルを作ることが容易だ。

 

 しかし、なぜ「ネスカフェ」で有名なインスタントコーヒー会社が、わざわざそのようなことをする必要があるのかという疑問もある。それは、ネスレが世界最大の食品メーカーだからだ。グローバル・トップ企業がまず最先端の「マーケティング」を行う。そう考えればすべてが納得できる。

 

 ネスカフェは、世界中でまんべんなく飲まれている稀有な商品。そうすると、世界中からふんだんなビッグデータの集積が可能なのは、ネスカフェを売っているネスレが最もたやすくできるわけだ。ほかの食品会社ではどうしても規模や取扱製品の制約が出てくる。その点、コーヒーというのは、非常に「便利な飲み物」だったと思う。

 

 このようにIoTとは、ただのセンサーやスマホ遠隔操作をするのではなく(それならBluetoothやテレビリモコンで十分だ)、ビッグデータを取ることに意味がある。それを行うためには、SNS機能、P2P、使った分だけサービス(PSS)、ポイントサービス(インセンティブになって、割引や電子通貨と同じ働きがある)との組み合わせが必須だ。

 

 そこで再び脳裏によみがえるのがロボレジだが、セルフレジはこうしたこととは全く無縁のことだと分かるだろう。

 

 

 

レジの自動化とはRFIDというタグのこと

 

 

 いわゆる自動レジというのは、さきの「ロボレジ」やすでに日本の一部のスーパーでも行われているセルフレジとも違うものだ。欧米で行われている自動レジはRFIDという、それまでのバーコードに代わるタグを読むことで、商品の行き先を補足して、会計を行うもの。

 

 RFIDとは「無線周波数識別」(ラジオ・フリクエンシー・アイデンティフィケーション)といって、ショッピングカートに入れた商品を補足する、ネットワークシステムと連携したインテリジェント・バーコードと呼ばれる新世代のバーコードのこと。

(http://atmega32-avr.com/how-rfid-works/ ATmega32-AVRというサイトを参照)

 

 RFIDの情報は電子リーダーに読み取られると、カートに入った商品を特定して、ほぼ同時に会計できる仕組み。リーダーはネットワークにつながっていて、商品情報をお店とメーカーに送る。銀行も通知を受けて、口座から代金分を引き落とすという仕組みだ。

 

 Amazon Goもこれと同じではないかと思える。しかし、RFIDの仕組みは結局、カードリーダーなどの装置を導入するコストがかかり、タグをいちいちリーダーに読ませる手間がかかる。商品情報を今ある位置から補足し、会計も同時に行うところはセルフレジとは異なっているが、実際のレジでの手間はセルフレジと同じだ。タグがバーコードからRFIDに代わっただけで、袋詰めの手間は同じである。

 

 これでレジに並ばなくてもOK。自分でやればいいということにはなるが、作業はほとんどセルフレジと同じ。これが13年から欧米で始まり、夢のような仕組みとして脚光を浴びていたらしいが、店の在庫管理と最終的な売り上げ清算以外、顧客や現場の側からはそれほど大きなコストダウンにはなっていなかったらしい。

 

 先の「フィナンシャル・タイムズ」の自動レジを廃棄してレジ係を増やしている傾向にあるという記事は、こうした現場での手間解消が大きくは測れなかったからであろう。そこに来ての日本の「ロボレジ」だが、たしかに袋詰めの手間が消えたところは、「モノづくりの日本」らしい「工夫」であろう。

 

 しかし、これは店舗でのレジと会計の混雑と手間の本質的な解決にはならない。

 

 

 

Amazon GoはすべてAIの画像認証技術

 

 

 ではAmazon Goはいったいどのようにして商品を認証しているのか。これはRFIDではなく、完全に画像認証で行っている。アマゾンの画像認証は「Rekognition」というサービスで、すでに一般的に行っている。おそらくこの技術を使ってすべての認証を行っているはずだ。アマゾンのホームページにはこのように書かれている。

 

 

 

(引用開始)

 

 

Amazon web servicesのホームページ。Rekognitionから

https://aws.amazon.com/jp/rekognition/

 

 

 Amazon Rekognition は、画像の分析をアプリケーションに簡単に追加できるようにするサービスです。Rekognition では、画像内の物体、シーン、および顔を検出できます。顔を検索および比較することもできます。Rekognition の API を使えば、深層学習に基づく高度な視覚検索やイメージ分析をアプリケーションにすばやく組み込むことができます

 

 Amazon Rekognition は、Amazon のコンピュータ視覚科学者が日々何十億もの画像を分析する Prime Photos のために開発したのと同じ、実証済みで高度にスケーラブルな深層学習テクノロジーを使ったサービスです。Amazon Rekognition は、深層ニューラルネットワークモデルを使用して、画像に写っている幾千もの物や状況を検出し、ラベル付けします。今後も継続的に新たなラベルや顔認識機能が追加されていく予定です。

 

 Rekognition の API を使用すると、強力なビジュアル検索および探索を簡単にアプリケーションに構築できます。Amazon Rekognition では、分析する画像と保存する顔のメタデータに対してのみ支払います。最低料金や前払いの義務は発生しません。

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 この部分を読むだけで、徹底的にIoTやPSSの考え方とリンクしていることがわかる。一番最後の最低料金や前払いの支払い義務はなく、あくまでデータにのみ料金がかかるという「使った分だけ」という最近の保険会社のCMと同じ発想だ。

 

 深層学習というのはディープ・ラーニングといって、データ間の相関関係を「特徴量」として抽出して分析する方法のこと。「特徴量」とは「物の特徴を数量化」することで、人間の顔などの特徴を「数量化」する。従来のようにAIに人間があるモデルや知識を教えてやることなく、自分で特徴を抽出・分析していくので、自ら判断して結論を引き出していける仕組みだ。

 

 これを自社のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)というクラウド・コンピューティング・サービス上で動かして、そこに取り込んだ膨大な画像のビッグデータを、おそらくはこのRekognitionの同様の技術で、顔の比較・分析・特定を行う。商品などの物にも同じ画像認証を行い、Amazon Goショップ内でのものと人すべての位置や移動を完全に特定できるシステムだといえる。

 

 つまり、RFIDやバーコードのように、いちいちそれをひとつづつ読み取る手間がかからない。当然会計もフィンテック技術で済ますことができる。

 

 

 

IoTとはセンサーよりもAIによる画像や言語認証技術で行う

 

 

 IoTに関して、まだまだ分からないことがある。IoTはモノをネットに紐づけてデータ化するのだから、赤外線のようなセンサーで行うのだと思っていた。しかし、どうもそうではない。そうしたセンサー技術だけであるなら、これまでもトイレや自動ドアなどで大昔から行われている。センサー自体は古い技術といえるだろう。

 

 センサーは何世代も前の技術であることは異論がない。「インステック」などで行われている、自動車の走行データなどはセンサーでとれる。しかし、これからはよりダイレクトに「生きた」物事をデータ化するというコンセプトでモノを紐づけていく。それがAI第3次革命である「ディープ・ラーニング」の主に画像認証で行われる。これは自動運転でも同じコンセプトである。

 

 画像や音声、文字、数値、温度など、店の中の状態すべてをダイレクトに数値化して、ビッグデータをディープ・ラーニングで解析し、ライフログをためて、ポイントや割引という形で消費者に製品やサービスを利用するインセンティブとして還元する。その時々の消費者行動が細部にわたるまでわかり、ものの売れ行きの傾向がわかる。

 

 また、人件費も大幅に削減されるから、商品の値段も大幅に下がることが予想される。無人店舗が増え、店舗の維持費自体が非常に安価になる。全国に自動販売機だけのコンビニができているそうだが、それすらも打ち砕くことになるだろう。自販機が必要ないのだから。

 

 そうなると、新たな業態やサービスが考えられてくるが、それ以前に出てくるのが、こうした先を読んだテクノロジーに対するきわめて「日本的」な反発である。

 

 

 

きわめて典型的「日本的」なAmazon Goへの反発

 

 

 こうした海外初の最新技術が出てくると、遅れている国はそれを素直に取り入れることもある。しかし、たいていは「その国らしさ」を持ち出して、新たな技術やサービスのアイディアの導入に無関心を装うとすることがある。他人にも無関心の同調を誘おうとして、新たな試みを停滞させ、数年後に知らん顔をして、そうした新しさを当然の物だという、実にふざけた態度をとる。

 

 以下は、まだ珍しい(2016年12月現在、Amazon Go自体が日本の一般に全く認知されていません)Amazon Goへの反論記事。いかにも予想された「日本らしい」反応なので、それを参考にして見ましょう。

 

 

 

(引用開始)

 

 

「Amazon Goは日本で流行らない?トランプは無人店舗のゲートをウォールで塞げば!?」

BLOGOSの2016年12月9日の配信記事 http://blogos.com/article/201376/

 

日本では(特に小額決済において)クレカより現金払いを好む傾向も強く、お金をやりとりせずに決済することに抵抗のある人も多い。

更には現金払いでなくても構わないが、支払い金額を事前に把握せずに引かれてしまうことに抵抗のある人はもっと多いでしょう。

出口を通る前や買い物中でもスマホで簡単に現在の合計額を確認できれば問題ないですが(私の見た情報では不明)、支払額確定後に買い過ぎたからって棚に戻す人なんて殆ど居ないがそれを許容しない仕組みは受け付けないんじゃないかな?


(中略)

 


アメリカ人なら細かいことを気にしなくても日本人は気にするからね。

それと意外に大事なのは世界でも高レベルの接客を当然のことと思っている日本の消費者は「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の声もない(セルフ給油のように機械がなんぼでも言ってくれるのだろうが)無人店舗は好まないかなと。

結局はセルフ給油のように人件費が掛からない分確実にディスカウントされていることが肝ですが、その幅次第ですかね?

でも、コンビニ程度でレジ係不要になっても陳列する人は必要なんだろうし、1人で何店舗も原チャリで回って陳列する専任を置くとか、配送に来た人が陳列までして完全無人化にするとかしても、そんなに大きなコスト削減にはならないような・・?

無人店舗はセキュリティ含めて設備投資も大きいだろうし、安全は別にしてコンビニで閑散時ならワンオペで調理・レジ・陳列も出来るだろうから。

セキュリティ面でいえば、盗まれない・壊されない自販機大国の日本こそ無人店舗展開に最適だと思いますが、米国ではどうするんでしょうね?

万引き犯程度ならゲート閉じれば大人しくしてくれるかも知れないが、強盗犯も簡単には奪って逃げられない仕組みなんだろうか?

だからこそ無人で店員が居ない方がいいと言っても、凶悪犯と一緒に閉じ込められた一般客はたまったもんじゃないよね。

強盗犯だけケートの前後で閉じ込めて上から檻が落ちてきて囲っちゃうとか自動で出来るならいいけど。(笑)

 

 

(引用終わり)

 

 

 

 このように「黒船」が来ると、その周辺の「異文化圏」では、あたらしい世界の真実を目にすると、アレルギーやヒステリーを起こす。社会学的には「急性アノミー」(アキュート・アノミーといって、急激に価値観が変わったために、脳の中が大混乱すること)という。日本人は、いまだに知的な人でも「日本人は農耕民族だから」という意味の分からない迷信を今でも本気でいう。

 

 上記の「アメリカ人なら細かいことを気にしなくても日本人は気にするからね」という発言は典型的だ。アメリカ人にはこれ以上なく神経質であったり、繊細な人間はいないとでも言いたいのであろうか。実にばかげた話だ。細かいことを気にしない、大雑把でガサツな日本人は身の回りに腐るほどいる。私自身そうである。

 

 上記の引用文の内容を要約すると、日本人は「現金払い」を好み「支払い金額を事前に把握せずに引かれてしまうことに抵抗」があり、「世界でも高レベルの接客が当然だから、店員のあいさつのない無人店舗は好まない」らしい。

 SUICAが多少もたつきながらもあっという間に広がって、今や一般の店でもSUICAやその他のICカードを使うのが楽で当たり前になっている日本人に、現金払いを好むというのは全くの迷信といっていいだろう。

 

 当然、Amazon Goは支払金額が事前にわからないわけではない。顧客が商品を手に取ると、スマートフォン内の「仮想バスケット」からすでにチャージしてある代金が引かれ、棚に戻すとチャージが解かれ、代金が戻る仕組みになっている。だからその都度スマホで代金を確認すればよいし、記事にあるような「支払額確定後に買い過ぎたから、商品を棚に戻すことを許容しない仕組み」ではない。

 

 それどころか、その仕組みを見る限り、店を出た後に、店に戻って商品を棚に戻すとチャージが解かれる。スマホをゲートにかざすのは入店時のみで、退店時は素通りだ。だから、買いすぎて返品などというバツの悪いこともなくなる。

 

 さらに意味の分からない文が続く。店舗運営は主に陳列をするだけになるのに、たいしてコスト削減にならないという。ただ陳列するだけになるから、店員がいらない。陳列係がまわるにしても、配送がやるにしても、コストは下がる。そこに新たな工夫をする必要は出てくるだろう。

 

 さらに、無人店舗のセキュリティの設備投資が大きいという点。セキュリティは画像認証ですべて行われる。スマホなどの認証デバイスを持たないで無理やり入店すると、非常ベルが鳴って警備が駆け付けるだろう。データはすべて取られている。店のシャッターが閉まって、「不審者が侵入いたしましたので、認証機器をお持ちの方は、裏口のゲートから速やかに退出ください」など、いくらでもやりようがある。

 

 さらに閑散時ならワンオペでもいいだろうといっているが、まあそれもやってもいいとは思う。しかし、基本は無人で十分。「セキュリティ面でいえば、盗まれない・壊されない自販機大国の日本こそ無人店舗展開に最適だ」(エスノセントリズム的な響きである)という部分に至っては、いや、自販機自体が不必要になるといわざるを得ない。Amazon Go自体が大きな自販機よりスムーズだからだ。

 最後に「凶悪犯と一緒に閉じ込められた一般客はたまったもんじゃない」というが、いったいどんな凶悪犯が来るというのだろう。金銭目当てなら、Amazon Goの店舗には現金は置かれないだろう。商品目当ての泥棒なら、無断持ち出しや、スマホなし入店を遮る仕組みを考えればよい。しばらくはそういった愚か者が事件を起こすだろうが、そのうちだれもやらなくなるだろう。

 

 そもそも、今現在の有人の店のほうが泥棒は多い。一番疑いがかけられるのは現金を預かる従業員のほうで、そのためにレジ締めを、24時間営業なら6時間ごとに行わせる。この非常に面倒な作業もなくなる。

 

 殺人や傷害目的、立てこもり目的の人物なら、すでに今ある店舗自体が危険極まりなく、すでに年間で無数の事件が起こっている。もちろん、そういう場合のお客さんを守るセキュリティは考えなくてはならない。そこでAIや画像認証技術が活用されるが、少なくともある人物が凶器を持っていたら、空港の金属探知機でももう数十年も前からあるように、すぐに探知して入店させない程度のことは簡単にできる。少なくとも新しいセキュリティシステムを考える余地ができるだろう(それは新たな富と仕事を生むということだ)。

 

 「強盗犯だけケートの前後で閉じ込めて、上から檻が落ちてきて囲っちゃう」必要は全くない。

 

 

 

「井の中の蛙、大海を知りたくない、知ろうともしない」日本人

 

 

 「井の中の蛙、大海を知らず」という。しかし、ネットや移動手段が発達した今、日本はとっくに井の中にはいない。少し前なら、井戸の上に上がって隙間から世界を見ていただろう。しかし、80年代くらいから、日本人を取り囲んだ「情報の壁という井戸」は全部取っ払われ、「さあ日本人よ、思いっきり世界を見よ。そして世界に参加していいんだ」といわれた。

 

 2016年の現在、とっくに井戸は埋め立てられ、私たちは「大海」に乗り出しているはず。しかし、そこでもまだ依然として、小さな水たまりにより固まって、小石の上で、目をふさぎ、耳をふさぎ、口もふさいでいるというのが我々日本人の真実ではないだろうか。

 

 「見ざる聞かざる言わざる」の時代から、我々一人一人は全く変わらない頭のままでいる。自分の脳を鎖国するのは勝手であり、楽である。しかし、すでに時遅し。黒船の砲撃は始まり、かご屋は過去の遺物として廃業を余儀なくされるのは目前である。

 

 もっとも、人力車という「文明の利器」でも作れば、しばらくは安泰だと思うのなら別かもしれない。